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 12月号  2020年



伊藤伊那男作品    銀漢今月の目次  銀漢の俳句 盤水俳句・今月の一句  
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伊藤伊那男作品

主宰の8句








        
             

 
          
    

今月の目次






銀漢俳句会/2020/12月号






    



  





   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 

◎関東の城址を巡る

 新型コロナの蔓延を機に銀漢亭を閉じた。俳句についての今年の行事のほぼ全てが翌年に繰り延べになったので時間ができた。しばらくは自宅周辺の散歩などを楽しんでいたが、かねてから思っていた関東周辺の古墳や城跡巡りなどを始めた。
 何といっても関東における戦国時代の城跡といえば、北条早雲に始まる後北条氏(鎌倉時代の北条氏と区別するための称)の城である。中核の城は小田原城(日本百名城)で、我々が今、目にするのは昭和35年(1960)に復興した鉄筋コンクリート造りの天守閣とその周辺だが、豊臣秀吉が天下統一の総仕上げに行った小田原征伐の時代のこの城は、過去に類例を見ない壮大な城塞であった。西洋や中国の城は市民の住む町ごと全部を高い城壁で囲む城塞都市が一般的である。その発想は日本に無かったのだが、小田原城は「総構(そうがまえ)」といって周辺九㎞にわたって町そのものを囲い込んだ最初の城である。囲ったのは石垣ではなく関東ローム層を利用した土塁である。五m位の深さに掘り下げて、その土を城内側に積みあげると深さ約十mの空堀ができる。その空堀に仕切りを付けて横に移動できない障子堀なども配した。敵は蟻地獄に落ちた状態となる。
秀吉は簡単に攻略できない事が解っていたので、関東の支城を次々に陥落させた上で、兵員二十二万人で取り囲んだ。後北条の支城は三島の山中城(日本百名城)、行田の忍城、寄居町の鉢形城(日本百名城)、八王子城(日本百名城)などで、各々工夫を凝らした城であったが、城主が小田原に詰めていて守備隊が僅少であったため圧倒的な大軍の前に陥落していった。小田原城の兵員は五万二千人で、三ヶ月ほど籠城したが、秀吉の一夜城の出現を見て降伏、開城して後北条家は断絶した。
 後北条家は年貢の税率を引き下げるなどの善政を敷いたといわれ、今も評判がいい。一族の結束も強固で内部抗争も無かった。敗退したのは時の運か、秀吉の知力と気迫に屈したのであった。
 そんなことを考えながら関東近辺を巡っている。ちなみに秀吉が京都の町を「お土居」という土塁で囲ったのも、家康がお江戸八百八町を外堀で囲ったのも、その発想は小田原城の「総構」からであるといわれている。
 さて俳句は?
 頭の箪笥にしっかりと溜め込んで醸成されるのを待つつもりである。ちなみに日本百名城とは公益財団日本城郭協会が創設40周年記念事業として、文部科学省、文化庁の後援で平成18年(2006)に発表されたもの。一都道府県に一つ以上、五つ以内の基準で選定されている。











 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男

白鳥の声大雪をもたらしぬ        皆川 盤水

 
先生は俳壇で「鳥の盤水」と言われていた。以前、中年前位までの句集を分類したことがあるが、句集の二割位が鳥を詠んだ句であった。詠まれた鳥は烏・鳩の他はほとんどが小禽で、逆に鶴や白鳥といった大型の鳥が少ないのが特徴であった。鶴に到っては晩年まで一句も詠んでおられなかったと思う。この句は網走の冬を訪ねた折の嘱目。白鳥の声が更に雪を呼び込むという発想がいい。白一色の北海道の風景である。(平成三年作『隨處』所収)








  

彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選


草の実のはたいて呉れし人につく      島谷 高水
良夜かな天岩戸の開くかに         保田 貴子
声出せば消え入りさうな秋の虹       山田  茜
かまくらのふるきみなとや秋の風      武井まゆみ
粒の数だけ陽を留めぶだう熟る       小野 岩雄
終ひ湯といふ安らぎや虫の夜        笠原 祐子
ひぐらしの声そろひたる野辺送り      大沼まり子
ふるさとに残るは一つ墓参かな       伊東  岬
声に声重ね綱引く運動会          萩原 陽里
南朝廟ふところにして山眠る        伊藤 政三
脇役が妙に達者で村芝居          宮本起代子
雁の列みるみる山河連れ来る        堀江 美州
建前の棟木高々秋澄めり          朽木  直
起きてきてまづ虫籠を目の高さ       谷岡 健彦
マンホールの蓋に帆船雲の峰        三代川次郎
軽トラでお軽連れ来る村歌舞伎       坂下  昭
八日目も同じ木で鳴く秋の蟬        山口 一滴
不知火のあと海鳴りの変りけり       坂口 晴子
草雲雀葛飾を突く渡し舟          桂  信子



















    
     

彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選

草の実のはたいて呉れし人につく      島谷 高水
 知らず知らずのうちに服に付いた草の実。牛膝や草虱などは特に付き易い。動物などに付着して種を運んでもらい、繁殖するためである。そのような草の実に気付いた人がはたいて落してくれるのだが、その跳ねた草の実が払ってくれた人の服に付く。「あっ今度はこっちに」などと言い合う。そんな秋の一景である。人の動きに焦点を当てたところが面白い。


良夜かな天岩戸の開くかに         保田 貴子
天照大神が素戔嗚尊の悪行に嫌気がさして天岩戸に隠れ地上の光が消えた……という岩戸隠れを題材にしている。良夜の光であれば、天照大神も出てこられるのではないか、という。太陽信仰が根底にある神話だが、月の光に転換した着想がこの句の眼目である。


声出せば消え入りさうな秋の虹       山田  茜 
「虹」といえば夏の季語。外に「春の虹」「秋の虹」「冬の虹」が季語として立項されている。「春の虹」の特徴、「秋の虹」の特徴、「冬の虹」の特徴が捉えられているかどうかが肝要である。この句は声が「消え入りさう」というところに、いかにもはかなく淋しく淡いこの虹の様子がよく捉えられているようである。他の季語と入れ替えはできない仕上がりである。  


かまくらのふるきみなとや秋の風      武井まゆみ
 「かまくらのふるきみなと」とは材木座海岸の先に僅かに岩礁が見える鎌倉時代の舟着場であった、和賀江島のことであろう。実朝が建造した巨船の逸話などがある港だ。句は平仮名で中七まで詠み進めているが、いかにも和歌的である。ただし中七を「や」で切って俳句に戻しているところが技である。さらりと「秋の風」を置いたところもいい。歴史の幽かな片鱗に秋風を配したことでいい抒情を生んだ。


粒の数だけ陽を留めぶだう熟る       小野 岩雄
葡萄の粒の数だけ一粒一粒が各々日を留めているという着眼点を褒めたい。確かに太陽の恵みがあってこその果実である。太陽の申し子のように丸い粒の集結した房であるだけに実感を深めているようだ。


終ひ湯といふ安らぎや虫の夜        笠原 祐子
 一日の仕事が終わり、家族も風呂を終えて、最後に自分が風呂に浸る。充足の時である。外からは虫の声が聞こえる。人にはこういう一時を持てることが幸せである。


ひぐらしの声そろひたる野辺送り      大沼まり子
 ひぐらしも弔意を表して鳴いているようだ。


ふるさとに残るは一つ墓参かな       伊東  岬
 墓参以外には帰る用の無い故郷。出郷者の悲哀。


声に声重ね綱引く運動会          萩原 陽里
綱引きの様子が伝わる。「声に声重ね」が実感。 


南朝廟ふところにして山眠る        伊藤 政三
吉野の後醍醐天皇系の哀史。山眠るの「眠る」に寓意も。


脇役が妙に達者で村芝居          宮本起代子
こういう不均衡な配役のあるところが村芝居の妙味。 


雁の列みるみる山河連れ来る        堀江 美州
雁の到来で山河の様子が整ったということであろう。


建前の棟木高々秋澄めり          朽木  直
 一読気持の良い風景。新築の喜びが爽やかである。


起きてきてまづ虫籠を目の高さ       谷岡 健彦
 虫取りの子供の様子が如実。今日も生きているか?


マンホールの蓋に帆船雲の峰        三代川次郎
海の町のマンホールか、雲の峰との取合せが生きた。 


軽トラでお軽連れ来る村歌舞伎       坂下  昭
 村歌舞伎の役者の生活感が出ているようだ。


八日目も同じ木で鳴く秋の蟬        山口 一滴
蟬は七日で死ぬというが……八日目も!という機知。 


不知火のあと海鳴りの変りけり       坂口 晴子
有明海の怪奇現象。海の音まで変ってくるのか? 


草雲雀葛飾を突く渡し舟          桂  信子
棹を突いて舟が岸を離れるのを「葛飾を突く」と。見事。 
  

















銀河集作品抄


伊藤伊那男・選

月今宵芋やうかんを手みやげに     東京  飯田眞理子
鳴くほどに身が透き通るつくつくし   静岡  唐沢 静男
秋の水映す羅漢の皆思案        群馬  柴山つぐ子
家系図の末端にゐて墓洗ふ       東京  杉阪 大和
干網の小貝の綺羅に月あかり      東京  武田 花果
都府楼の礎石に座せば色鳥来      東京  武田 禪次
捕まらぬにはとり一羽夕野分      埼玉  多田 美記
どうしても段差なくせぬ盆の道     東京  谷岡 健彦
この辻子(づし)はどの世へ抜ける夕しぐれ   神奈川 谷口いづみ
干すものは蛇籠に掛けて夏の川     長野  萩原 空木
一つ谷越し来て子らの地蔵盆      東京  久重 凜子
いささかのためらひもあり夜食とる   パリ  堀切 克洋
夜の精の編みたる烏瓜の花       東京  松川 洋酔
川音や徹夜踊の果ててより       東京  三代川次郎













         





綺羅星集作品抄

伊藤藤伊那男・選

故郷いま秋刀魚焼く頃われも焼く     埼玉  伊藤 庄平
一位の実嚙めば故郷ほろ苦し       埼玉  大野田井蛙
墓囲む田より稲刈終はりけり       東京  大溝 妙子
世の中が少し傾く秋簾          和歌山 笠原 祐子
心頭滅却冷房の利きすぎる        高知  神村むつ代
日陰より代はる代はるに墓詣る      埼玉  森濱 直之
老眼鏡外せば雀蛤に           広島  長谷川明子
橋姫を攫ひに来る秋出水         東京  橋野 幸彦
狂はねば黄泉へは行けず踊の輪      埼玉  萩原 陽里
噴水ののぼりきるまで懸命に       埼玉  夲庄 康代
噴水ののぼりきつては奔放に       埼玉  夲庄 康代
大の字に心で繫ぐ施火五つ        大阪  末永理恵子
はじめから競はぬ色よ吾亦紅       神奈川 大野 里詩
脳内に分け入るごとく鶏頭花       東京  朽木  直
地に足のつく暇のなき踊かな       神奈川 こしだまほ
こほろぎの大奥跡を知り尽くす      東京  高橋 透水
口下手のままに入りたる墓洗ふ      大阪  中島 凌雲
蛇穴にこの世の景色見飽きたと      東京  中村 孝哲

幼子のうさぎ探せぬ月見かな       東京  相田 惠子
鰯雲声の飛び交ふ魚市場         神奈川 秋元 孝之
みちのくに住み古り親し無花果煮     宮城  有賀 稲香
墓参同窓会も兼ねてをり         東京  有澤 志峯
鶏頭花末広がりに畳む襞         神奈川 有賀  理
みすずかる信濃の秋の捥ぎ放題      東京  飯田 子貢
子は父を厭ひはじめぬ運動会       埼玉  池田 桐人
仰臥から寝返り打てば鶏頭花       東京  伊藤 政三
一葉落ち一葉の日向ありにけり      神奈川 伊東  岬
石段の上も石段墓詣           東京  今井  麦
刈草を万葉集の風過ぎぬ         東京  上田  裕
邯鄲の耳に残りて夢となる        東京  宇志やまと
ぼうぜんと立ちつくしゐし終戦日     埼玉  梅沢 フミ
月光の踏みしだかれし獣みち       埼玉  大澤 静子
萩こぼる枯山水を波立たせ        東京  大住 光汪
甘え声残して別れ鴉かな         東京  大沼まり子
顎外るるまで欠伸して夏終る       東京  大山かげもと
豆腐屋を一つ曲れば虫時雨        東京  小川 夏葉
毒茸の胞子一村眠らしむ         宮城  小田島 渚
墓洗ふついでに海難碑もあらふ      埼玉  小野寺清人
江の島を遠くに置きて夏の月       神奈川 鏡山千恵子
巻き上げて夜は澄みにけり秋簾      東京  梶山かおり
黒揚羽湿つたままの舌を出す       愛媛  片山 一行
軽トラで家族親類村歌舞伎        東京  桂  信子
子規庵
文机に糸瓜の影の濃く淡く        東京  我部 敬子
利き腕はギッチョと鳴けりきりぎりす   東京  川島秋葉男
姨捨を芒のなでるのが見える       長野  北澤 一伯
少年老ゆ手花火弾け散る間にも      東京  柊原 洋征
回るたび沖見る木馬草の絮        神奈川 久坂衣里子
炎帝の居据る構へ大八洲         東京  畔柳 海村
波音を加へて踊太鼓かな         東京  小泉 良子
前略と書きてしばしの良夜かな      東京  小林 雅子
夏終る勿来関を越えぬまま        東京  小林 美樹
言の葉に母の温もり萩の花        神奈川 小林 好子
まばたきの間に秋の蚊を見失ふ      東京  小山 蓮子
飛魚北風や波止に男の立話        長崎  坂口 晴子
糸瓜忌を過ぎて糸瓜の棚解く       長野  坂下  昭
竹籠のあたり花野の風らしき       千葉  佐々木節子
水口の少し遅れて稲穂かな        群馬  佐藤 栄子
向かう山見尽し巻かるる秋簾       長野  三溝 恵子
住職は吾子ほどの齢葉鶏頭        東京  島  織布
潦秋空を切り取つたかに         東京  島谷 高水
湖に月光こぼす浮御堂          兵庫  清水佳壽美
親戚を一回りする墓参かな        埼玉  志村  昌
夜長かな街のひとつを遊びきり      千葉  白井 飛露
子規の忌や律手入れせし庭巡る      東京  白濱 武子
迷宮となりつつ渋谷の炎天下       東京  新谷 房子
地割まつ香具師の四五人秋祭       静岡  杉本アツ子
村役の草履が並ぶ施餓鬼かな       東京  鈴木 淳子
山鹿燈籠祭
夕星と人垣と待つ燈籠踊         東京  鈴木てる緒
秋の夜の度数の合はぬ眼鏡かな      東京  角 佐穂子
秋燕にはや暮れ色の蔵の町        東京  瀬戸 紀恵
くれなゐの押し合つてゐる鶏頭花     神奈川 曽谷 晴子
桐は実に早も話は下駄簞笥        長野  高橋 初風
につぽんよりにほんが親し敗戦日     東京  武井まゆみ
朝刊に日の斑触るるや糸瓜棚       東京  竹内 洋平
後ろから驚かさるる一葉かな       東京  多田 悦子
曼珠沙華墓石の姓の皆同じ        東京  立崎ひかり
秋の蟬戸口打ちつつやがて黙       東京  田中 敬子
この良夜手影のうさぎとび跳ぬる     東京  田家 正好
踊の輪抜けて小鉤を掛け直す       東京  塚本 一夫
影踏みの思ひ出遠き良夜かな       東京  辻  隆夫
独りでに走り出しけり走馬灯       東京  辻本 芙紗
夕映えの空に溶け行く赤蜻蛉       愛知  津田  卓
星今宵祈りの島の天主堂         東京  坪井 研治
秋暑し座席表めく墓地の地図       埼玉  戸矢 一斗
土地勘のなき者が来て墓参        東京  豊田 知子
ぎすの髭未だ落城嘆くかに        神奈川 中野 堯司
神名備の懐に汲む秋の水         東京  中野 智子
同名のご先祖もゐて墓洗ふ        茨城  中村 湖童
白蠟の垂れ細々と施餓鬼棚        埼玉  中村 宗男
煙立つまま門に入る魂迎         東京  西原  舞
茶の花の一壺一輪あれば足る       東京  沼田 有希
銀漢の苑に十年萩は実に         神奈川 原田さがみ
火袋の筒回り出す盆提灯         兵庫  播广 義春
小鳥くる大臣(おとど)在せる御神門        東京  半田けい子
鹿鳴くや我が恋歌の拙くて        東京  福永 新祇
三階へ一段毎の残暑かな         東京  福原  紅
法師蟬声を尽くせば息短か        東京  星野 淑子
八月やぎらぎら還りくる昭和       東京  保谷 政孝
何の木と解らぬまでに霜囲        東京  堀内 清瀬
郡上をどり下駄で地霊を蹴り起こす    岐阜  堀江 美州
この薄き負真綿とて手離せず       東京  松浦 宗克
盆東風や仏花にもある裏表        東京  松代 展枝
大漁節港に育つ鰯雲           東京  宮内 孝子
脇役に台詞教はる村芝居         神奈川 宮本起代子
秋高し一つ買ひたる竹とんぼ       東京  村上 文惠
雨去れば時を隔たず鉦叩         東京  村田 郁子
月山の麓の水の今年米          東京  村田 重子
能登王の墓の麓へ墓参          東京  森 羽久衣
小突かれて鶏頭の赫また深む       千葉  森崎 森平
とぎ汁を根元にくれて大糸瓜       長野  守屋  明
休みつつ闇織り上ぐる螽斯        東京  保田 貴子
銀漢の片隅に我はぐれ星         愛知  山口 輝久
木槿咲き継ぐ一日を全うし        東京  山下 美佐
枯色の風をくれたる吾亦紅        東京  山田  茜
磔刑のごとく担がれ案山子翁       群馬  山田  礁
拭ひさるやうに雲ゆく野分あと      東京  山元 正規
菩提から涅槃への道秋遍路        愛媛  脇  行雲
思案の種よりも大きな枇杷の種      東京  渡辺 花穂
お隣の煙につられ秋刀魚買ふ       埼玉  渡辺 志水














     









銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男


故郷いま秋刀魚焼く頃われも焼く     伊藤 庄平
故郷を離れて暮らす私には共感できる句だ。私の子供の頃の信州は、生の海の魚は無く、秋刀魚も塩蔵品であった。それでも割合薄塩で、季節感はあったように思う。安くは無かったのであろう。一人一匹ということはなく半分ずつであった。頭の方を貰うか、尾の方を貰うか、悩んだものである。そのように郷愁を誘う魚である。異郷で秋刀魚を焼き、その度に故郷に思いを馳せる。望郷の詩。 


一位の実嚙めば故郷ほろ苦し        大野田井蛙
これも望郷の詩。一位は宮廷で笏の材料にしたことから付いた名称であららぎとも言う。私の郷里信州は一位の木が多く、垣根にしていた。秋になると黒い種を囲んだ赤い実を付ける。少し粘りのある甘い実で、おやつ替りに食べたものである。故郷を離れて長いが、この実を見ればついつい摘んでしまう。口に入れるとわっと故郷の思い出が拡がる。「ほろ苦し」に苦楽の思い出が湧き上がるのである。 


墓囲む田より稲刈終はりけり        大溝 妙子
寺ではなく、故人の屋敷墓のある場所なのであろう。多分、日当りもいい場所である。田畑を守ってきた先祖に感謝しつつ、先ず墓地の周辺の田から稲刈りを始める。このような気持で日本の田園は培われてきたのだな、と思う。 


世の中が少し傾く秋簾           笠原 祐子
秋になって、くたびれてきた簾が傾く、という句は多くある。だがこの句は簾ではなく、世の中の方が傾いているという、心象風景に転化したのである。個人の問題として理解してもいいし、現在の世の中の様々な矛盾を突いた句として読んでもいい。


心頭滅却冷房の利きすぎる         神村むつ代
織田軍に包囲された甲斐国塩山恵林寺の快川国師は「心頭滅却すれば火も亦涼し」の偈を残して火中で没したという。その偈を用いたパロディー句である。強い冷房に、心頭滅却しても、どうにもならない、と言う。こういう言葉遊びができるのも俳句という形態だからこそ。 


日陰より代はる代はるに墓詣る       森濱 直之
面白いところに目を付けた句である。黒い喪服などを着ていたら尚更耐えられない暑さである。長いお経などがあったら大変である。軒下か樹下かに身を隠して、線香の順番が来たときだけ日陰を出る。人間の行動の面白さを見逃していない。同時出句の〈捲るたびおとぎの国へ長き夜を〉も童話の国へ深入りしていく楽しさ。


老眼鏡外せば雀蛤に            長谷川明子
七十二候の「雀化して蛤となる」は九月の第二候。この空想的な季語に、老眼鏡を合わせたのが楽しい。雀と蛤は色も模様も似かよっているので、老眼鏡を外したら見分けが付かなくなってしまった、という。滑稽の効いた句。 


橋姫を攫ひに来る秋出水          橋野 幸彦
 橋姫は、橋を守る女神。山城国宇治橋には橋の半ばに外へはみ出している部分があり、橋姫を祀ってあるという。秋出水が橋姫を攫っていきそうな高さだという。古今和歌集などの時代から詠み継がれた橋姫に秋出水をぶつけた手腕はさすがである。

 

狂はねば黄泉へは行けず踊の輪       萩原 陽里
「踊」の本質とはこのようなことであろう。天鈿女命も出雲阿国も命懸けの踊り。盆踊は死者と生者の接点で、黄泉に最も近い舞台である。だが人は狂うことができないからこそ「狂はねば……」と言うのである。世の柵から逃れることのできない詠嘆。「踊」の本質とはこのようなことであろう。天鈿女命も出雲阿国も命懸けの踊り。盆踊は死者と生者の接点で、黄泉に最も近い舞台である。だが人は狂うことができないからこそ「狂はねば……」と言うのである。世の柵から逃れることのできない詠嘆。


噴水ののぼりきるまで懸命に        夲庄 康代
噴水ののぼりきつては奔放に          同
この二句は並べて読んでみるのがいい。上りきるまでは「懸命」、上りきったあとは「奔放」。噴水の上昇と落下を擬人化したところが見事である。噴水を人間に置き替えて鑑賞してみるのもいいかもしれない。 


大の字に心で繫ぐ施火五つ         末永理恵子
今年の京都五山の送り火は、一ヶ所だけ点火することだけで終わった。室町時代から続いてきた大行事だけに世の落胆は大きかった。作者はその心の中で、一点の、大の字に繋げていき完成させる。心眼で見た今年の送り火である。


 その他印象深かった句を次に

はじめから競はぬ色よ吾亦紅        大野 里詩
脳内に分け入るごとく鶏頭花        朽木  直
地に足のつく暇のなき踊かな        こしだまほ
こほろぎの大奥跡を知り尽くす       高橋 透水
口下手のままに入りたる墓洗ふ       中島 凌雲
蛇穴にこの世の景色見飽きたと       中村 孝哲






           








 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
秀逸

み吉野の水より旨し新豆腐        大阪  西田 鏡子
ついでにと本家の墓も洗ひけり      千葉  中山 桐里
くべ足して苧殻の焰高くせり       東京  岡城ひとみ
新涼や拭けば畳の匂ひ立つ        青森  榊 せい子
枯れてなほ熱ありさうな鶏頭花      千葉  川島  紬
鹿鳴くや飛火野の中風の中        埼玉  園部 恵夏
名月や団子の影と酒器の影        東京  市川 蘆舟
秋暑しとどのつまりは老いにけり     東京  渡辺 誠子
天の川遠流の島は黒々と         埼玉  渡辺 番茶
額縁に知る血縁や魂迎へ         東京  尼崎 沙羅
立ち話するうちに暮れ鶏頭花       東京  生田  武
鶏頭の種に翳なしかばかりも       東京  矢野 安美
地図に無き路のもてなし秋遍路      神奈川 大田 勝行
独り来てひと日の旅や吾亦紅       東京  須﨑 武雄
目を閉ぢて計るあはひやばつたんこ    千葉  針田 達行

借景の富士をも隠す稲架襖        東京  井川  敏
豆腐屋はさざなみを売り秋の暮      東京  荻野ゆ佑子
津軽路は北のまほらまちちろ鳴く     東京  釜萢 達夫
邯鄲の半睡の夢覚めやらず        神奈川 河村  啓
いちじくを割れば火山の断面図      広島  塩田佐喜子









星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選



着陸の機影眩しき残暑かな        東京  秋田 正美
柴折戸を開けたるままに良夜かな     埼玉  秋津  結
葛咲くや妣にきゝたき事多し       京都  秋保 櫻子
夜長し昭和歌謡は子守唄         東京  朝戸 る津
風道にほどよき丈の秋すだれ       東京  浅見 雅江
新米の炊きたての飯御代りす       愛媛  安藤 向山
上の空めきたる台詞村芝居        長野  池内とほる
親指に塩のせて吞む今年酒        東京  石倉 俊紀
ささやける声通り抜け萩の道       東京  伊藤 真紀
おはやうといつもの声で梨供ふ      広島  井上 幸三
色鳥来林の空は透きとほり        埼玉  今村 昌史
一心に何かを祈る秋社          愛媛  岩本 青山
ホームラン弧を高々と秋高し       東京  上村健太郎
石鎚も色を違へて炎天下         愛媛  内田 釣月
早稲の穂と子等を見守る道祖神      長野  浦野 洋一
望郷の瞳またたく銀河かな        埼玉  大木 邦絵
伊勢湾の凪をあそべる鯨の尾       東京  大島雪花菜
虫しぐれやがて夢路のうつろなる     東京  岡田 久男
畦道の風になびきし芒かな        群馬  岡村妃呂子
夏兆す佐助稲荷の赤鳥居         神奈川 小坂 誠子
一尺の近さ露置く嵐山          京都  小沢 銈三
歓楽街に金粉惜しみなき灯虫       埼玉  小野 岩雄
萩咲けば楽しかるべし外厠        静岡  小野 無道
二百十日ポプラの空の高く昏れ      宮城  小野寺一砂
四方から虫の音浴びし早寝かな      東京  桂  説子
開拓の大地ゆたかに今朝の秋       埼玉  加藤 且之
つくつくし親に尽くせと鳴きとほす    静岡  金井 硯児
露おりて闇に音なき音のあり       長野  唐沢 冬朱
下向かぬ意志を見せたるオクラの実    愛知  北浦 正弘
花芙蓉咲きつつ茎の伸びにけり      神奈川 北爪 鳥閑
楽しみは母の太巻き運動会        長野  北出 靖彦
写る我以外秋めくショーウインドー    東京  北原美枝子
線香の束の火早し墓参          東京  絹田  稜
尻出すがやや恥づかしき草相撲      東京  久保園和美
銭湯の坪庭の風涼新た          東京  倉橋  茂
野分明け万座温泉雲の上         群馬  黒岩伊知朗
遠き日の花野に迷ふ童かな        群馬  黒岩 清子
波音が聞こえるかとも天の川       三重  黒岩 宏行
大漁旗揚げて入船鰯雲          東京  黒田イツ子
鎌倉に十字架の寺こぼれ萩        神奈川 小池 天牛
うつくしき瞳すぎゆく秋の風       東京  髙坂小太郎
桐一葉落つる所以のありにけり      東京  小寺 一凡
野分雲遠くにありて幾層に        群馬  小林 尊子
銭湯の煙がぼかす秋夕焼         千葉  小森みゆき
腰沈め鰹切る様出刃の冴え        宮城  齊藤 克之
世変はれど七輪欲しき秋刀魚かな     神奈川 阪井 忠太
押し花に湿る新聞夏休み         長野  桜井美津江
秋夕焼溢れ出したる郷の空        東京  佐々木終吉
惜しみなく父の遺影に貴船菊       群馬  佐藤かずえ
爽涼や社の由来など聞きて        群馬  佐藤さゆり
二百六十二字となふ厄日かな       東京  島谷  操
遠目にはひと色に揺れ秋桜        東京  清水 史恵
蜻蛉の影滑りゆく水面かな        東京  清水美保子
川霧の速き船津の常夜燈         神奈川 白井八十八
東西に潜む虫虫関ヶ原          岐阜  鈴木 春水
対岸のビル歪みたる油照り        群馬  鈴木踏青子
秋祭気合あはせる節回し         愛知  住山 春人
バスの窓はみ出してゐる鰯雲       東京  田岡美也子
同行の杖のすり減り秋遍路        東京  髙城 愉楽
底紅や誰にも会はぬ一日あり       福島  髙橋 双葉
祖母ありし日々や本家の葭障子      長野  宝 絵馬定
見上げれば上毛三山崩れ簗        埼玉  武井 康弘
秋の水洗ひ晒しといふ言葉        東京  竹花美代惠
挨拶の言葉短き残暑かな         神奈川 田嶋 壺中
さやけしや筑波の道の甲斐の宮      東京  田中  道
秋扇やひと雨欲しき話など        神奈川 多丸 朝子
蜩や樟の大樹をほしいまま        愛知  塚田 寛子
菊膾溢るる香沈めたる          東京  辻本 理恵
さて何を着やうと迷ふ残暑かな      東京  手嶋 惠子
少しだけ居酒屋に置く秋思かな      埼玉  内藤  明
決めかねる終の棲家や墓洗ふ       千葉  長井  哲
清水飲む身体髪膚濾過最中        岩手  永井 むつ
夕暮の波にサーファー輝けり       神奈川 長濱 泰子
長雨のカンナの朱の冷えて咲く      東京  中村 藍人
是よりの木曾路に釣瓶落しかな      長野  中山  中
さはやかや雷門をくぐる夜        東京  永山 憂仔
八朔の牛突き深き山里に         京都  仁井田麻利子
仏壇の送り団子や京の盆         東京  西  照雄
夏空に球児と共に校歌聴く        宮城  西岡 博子
秋簾灯れば見ゆる人の影         静岡  橋本 光子
遺影見つつ母の遠忌の盆支度       東京  橋本  泰
蜩の声聞こえたり電話口         東京  長谷川千何子
冬瓜の透けて歯応へ無き会話       神奈川 花上 佐都
栗むく日思ひ出捲り重ねたり       長野  馬場みち子
暮れなづむ薄紅の鰯雲          長野  樋本 霧帆
切り分けて母に届ける西瓜かな      神奈川 日山 典子
秋澄むや熊野古道の王子の碑       千葉  深澤 淡悠
雨雲は雨降らさずにはたゝ神       長野  藤井 法子
時無しに鶏鳴響く秋日和         東京  牧野 睦子
千枚田一枚ごとの稲雀          神奈川 松尾 守人
鶏頭の穂先わづかに暮残る        神奈川 水木 浩生
不忍の蓮の実飛ばす鯉の影        東京  水野 正章
底紅の蕊の真白へ朝日さす        京都  三井 康有
石庭の砂紋の上に又一葉         東京  棟田 楽人
古都の朝もやに鋭き鹿の声        東京  八木 八龍
富士山を寒夕焼が下りてくる       東京  家治 祥夫
秋高し行方不明の竹とんぼ        東京  山口 一滴
蔓に咲く凌霄の花地上にも        群馬  山﨑 伸次
秋の蚊打ち仏の前を通り過ぐ       群馬  山﨑ちづ子
墓参り手押ポンプは無くなりて      神奈川 山田 丹晴
日に三度白米食みて厄日過ぐ       静岡  山室 樹一
虫めがね秋思の皺の深かりし       高知  山本 吉兆
子持鮎ほほばり見上ぐ榛名山       群馬  横沢 宇内
竈馬越えて仏の掌            神奈川 横地 三旦
花びらはどこにあるのか鶏頭花      神奈川 横山 渓泉
朝冷えや振子時計の刻む音        千葉  吉田 正克
雨音も余韻の一つ夏館          山形  我妻 一男
雁は北よりの使徒下り立ちぬ       神奈川 渡邊 憲二





  













星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

み吉野の水より旨し新豆腐         西田 鏡子
 私ごとだが一昔前、吉野西行庵から峰入の道を延々と歩いて洞川の宿に辿り着いたことがある。そこは関西各地からわざわざ汲みに来る名水の地であった。宿の前に豆腐屋があり、外で食べることができた。それは今も思い出すほど旨い豆腐で、食事が付いている宿なのに、二泊の間に三回程食べに寄ったほどである。句は水も旨いが豆腐はもっと旨いという。これほど旨そうな新豆腐を詠んだ句は珍しい。同時出句の〈島々は瀬戸の飛石秋夕焼〉の静謐で豊かな風景、〈朱雀門のこして帰る燕かな〉の歴史に題材を取った抒情、〈去ぬ燕空がだんだん重くなる〉の感性の良さも称えておきたい。


 

ついでにと本家の墓も洗ひけり       中山 桐里
 「墓参」の句というと厳粛に詠んだ句がほとんどだが、この句は少し外して、ほのかな可笑しさを出している。もう分家して長い歳月があり、それほどの付合いも無いのかもしれない。だが厳然たる先祖であり、やはり詣でておこうという。「ついでに」という措辞は額面通りには取らないで、むしろ作者の遊び心だと思った方がよさそうだ。同時出句の〈墓洗ふ墓移すこと詫びながら〉は今日的世相を反映している。


 

くべ足して苧殻の焰高くせり        岡城ひとみ
迎火を焚いているのだが、「くべ足して」に先祖を迎える真摯な気持ちが出ているようだ。「焰高くせり」に魂の交感がある。同時出句の〈この年も組むに梃摺る盆提灯〉は、「この年も」の「も」が決め手。毎年毎年梃摺っているのである。 


 

新涼や拭けば畳の匂ひ立つ         榊 せい子
 炎暑の夏が当り前のようになってきたようだ。それだけに「新涼」は格別の思いである。拭き掃除をして、作者の気持までもが一変した様子がよく出ている。同時出句の〈恐山の石みな仏風は秋〉は、いたこを訪ねる季節も過ぎて閑散としたこの山の様子が如実である。石も木も皆仏という信仰の山の秋風である。


枯れてなほ熱ありさうな鶏頭花       川島  紬
 鶏頭という字にも出ているが、何だか動物的なこの植物だけに「熱ありさうな」と捉えたのは、いい感覚である。枯れてもまだまだ命脈を保っているようだと、この花の本質をしっかりと詠み取っている。


 

鹿鳴くや飛火野の中風の中         園部 恵夏
春日大社全域に広がる「春日野」の別称で、長い歴史に培われ磨き抜かれた地名である。「飛火野の中風の中」と「中」をリフレインにしたことで抒情感を高めているようだ。


 

名月や団子の影と酒器の影         市川 蘆舟
「月より団子」ということになろうか。団子を盛った折敷や酒器を前面に出して、その影を強調しているのだが、そのことによって月の光が一層際立つという仕掛けである。


 

秋暑しとどのつまりは老いにけり      渡辺 誠子   
今年の夏から秋にかけての異常気象を象徴している句である。しかもコロナ禍が続き、精神的にも疲弊したことがこの句の背景にあるようだ。「とどのつまりは老いにけり」とは実感があり、この述懐に賛同する人は多いことであろう。今年の夏から秋にかけての異常気象を象徴している句である。しかもコロナ禍が続き、精神的にも疲弊したことがこの句の背景にあるようだ。「とどのつまりは老いにけり」とは実感があり、この述懐に賛同する人は多いことであろう。


天の川遠流の島は黒々と          渡辺 番茶
「遠流の島は黒々と」は単に実景だけではなかろう。過去の悲しい歴史を重ね合わせた表現である。同時出句の〈幼帝の入水に泣ける夜長かな〉も平家物語の安徳天皇の段。「泣ける夜長」に作者の人柄なども偲ばれるのである。


 

地図に無き路のもてなし秋遍路       大田 勝行
「遍路」は本来は春の気候の良い時に行われることが多く、春の季語。「秋遍路」にはどこか淋しさが付き纏うようである。この句も知らない道に迷い込んだようである。日の暮れも早く心細さもあるのだが、そこで受けた思わぬ接待。その安堵の心が出ている句。「秋遍路」だからこその味わいである。


独り来てひと日の旅や吾亦紅        須﨑 武雄
 「吾亦紅」という始めから枯れているような風姿の季語との取合せがうまく嚙み合った句である。「独り」「ひと日」のリズムもよく、「独」「吾」の字面も秋の孤独感を深めるようである。

その他印象深かった句を次に


津軽路は北のまほらまちちろ鳴く      釜萢 達夫
借景の富士をも隠す稲架襖         井川  敏
豆腐屋はさざなみを売り秋の暮       荻野ゆ佑子
邯鄲の半睡の夢覚めやらず         河村  啓
いちじくを割れば火山の断面図       塩田佐喜子


















伊那男俳句  


伊那男俳句 自句自解(59)          
  
熱燗やあまた仏に会ひし夜は

 30代の後半から奈良へ通うようになった。金曜日の夜行バスに乗り、日曜日の遅い新幹線で戻る。奈良の町に一泊するので夜は酒を飲みに出る。2年ほどして餅飯殿通りの外れに「蔵」という店を見付け、以来行けば必ず寄るので、ざっと30年ほどの付き合いとなる。当時の奈良は店仕舞も早く酒場の数も少なかったように思う。奈良の食べ物も、私の思い込みかもしれないが、西瓜と奈良漬と茶粥……。ある時入った店は女将さんが1人で切り盛りしていた。といっても客はいない。ビールを注文したあと「何か肴を」というと「病み上がりでね、3日ほど休んじゃったのよ、そうそう筍の煮たのがある」と入歯を直しながら冷蔵庫から容器を取り出した。「うーん、この筍、少なくとも3日以上前のものか……」と心の中で呟いて食べた。そのような失敗を重ねた末、「蔵」にたどり着いたのである。そうそう1日中仏様を訪ね歩いたあとの燗酒は心地よく腸を温めてくれた。

手鏡の中より妻の御慶かな

 妻が亡くなってかれこれ14年ほどが過ぎた。薄情なことであるが、思い出の数々が遠ざかっていくように思う。ただし自分が14年間も長生きして、かなり幸せな日々を送っていることを申し訳なく思う気持は逆に募るような気がしている。妻は孫の顔を2人までしか知らないが、私はそのあとの5人、計7人の成長を目にしている。何年か前から長女の家に居候して7人家族で賑やかに暮らしているのであるから……。さてこの句は平成12年の句なので、20年ほど前、妻は40代の後半であったことになる。京都生れの妻は着物を着こなし、行事なども割合大事にしていた。京都の女性は13参りが済むと嫁入準備として着物を誂え始めるのである。この句、多分お節料理の盛り付けの合間に鏡を覗き込んだ時に、鏡越しに目が合ったという一景。55歳で死んだ妻は青山の寺に葬ったが遺骨の一部を京都東山の大谷祖廟に納め、里帰りをさせたのがせめてもの恩返しであった。  







     


 

伊藤伊那男  俳人協会賞受賞










 去る3月5日、平成30年度の俳人協会四賞の授与式が京王プラザホテルで行われました。
ご存じの通り、伊藤伊那男主宰が句集『然々と』で第58回俳人協会賞を、同人の堀切克洋さんが『尺蠖の道』で第42回俳人協会新人賞を受賞四、銀漢俳句会から4賞の内二賞を頂くという快挙となりました。2019/4/30/更新














俳人協会四賞・受賞式









更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。


 二次会・店内に入りきれない人数でしたが,日曜日とあって店の前の通りも通行が少なく,穏やかな天候の下、外に溢れる受賞者の二人や他結社の方々と交流するなど、思い思いにお酒を楽しみながr懇談を深め,何時までも祝賀会の熱気は冷めることがありませんでした。









 受賞 祝賀会

 伊藤伊那男 俳人協会賞
堀切 克洋  俳人協会新人賞
2019/3/17 学士会館
銀漢亭(二次会)


 月刊「俳句四季」に受賞の記事が掲載されました。
月刊「俳句四季」に受賞の記事掲載は
5月号(4/20発売)か6月号(5/20発売)のどちらかを予定しています。


然々と   伊藤伊那男

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句集 「然々と」 伊藤伊那男

 
句集「尺蠖の道」
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尺蠖の道  堀切克洋




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受賞祝賀会 3月17日 日時 12時 
会場 学士会館 東京神田 





haishi etc
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銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。


















掲示板



















               
 
     

銀漢亭日録

 
9月

9月10日(木)
高遠句会10周年記念誌へ寄稿文800字ほど。桃子の大学時代の友人あっこさん来宅。子息が中学から成城に入り、龍正と同期生になるという不思議な縁。

9月11日(金)
17時半、高部務さんと京橋の明治屋に待ち合わせ。持ち込み用の白ワイン買って、「鮨藤山」。見事な魚(鮪、鰹、鮑、烏賊……)。あと神保町の「兵六」に行き焼酎のお湯割少々。

9月12日(土)
午前中、農家の野菜買いに。午後、オンラインで第8回「千両千両井月さんまつり」。堀井正子、西村麒麟さんの講演のあとのシンポジウムで井月俳句について20分程喋る。なかなか疲れる。「春耕」12月号へ、山田春生句集『薫風』の一句鑑賞300字。

 9月15日(火)
農家の野菜買いに散歩。夜、神保町の「天為」発行所にて「火の会」久々。檜山哲彦、広渡敬雄、竹内宗一郎、天野小石、太田うさぎ、峯尾文世、阪西敦子。飲み物、食べ物持ち込み。「銀漢亭」跡工事中、郵便受けを覗くと、「ビストロ天野」と。今から新規開店を目指す人がいるのは稀有。一つ隣の「ふくの鳥」は造作そのままで、越前ラーメンの看板に替わる。

9月16日(水)
朝、ふと思い立って千葉の佐倉へ。昼前、佐倉城跡に建つ国立歴史民俗博物館に入る。少しだけ見る予定が3時間半ほど見てまだ全体の半分。途中で出て、城跡を巡る。さすがに十一万石の城は広い。土塁の城。某損保会社に堀田家直系の二男さんがいたことを思い出す。日没となったので、駅前の小さな居酒屋で少酌して帰宅、22時。京成町屋駅のトイレに、「つまる原因となりますのでおにぎり等を流さないでください」の掲示あり。おにぎりの特定がすごい。

9月17日(木)
業務用スーパーへ桃子と。冷凍食品買い出し。あと「オオゼキ」で鮎、鯛の兜買う。鮎山椒煮。鯛の兜煮。里芋煮。

9月19日(土)
農家に野菜買いに行くが休み。トホホ。違う農家で大根の葉を買う。莉子(高三)の仲間3人来て、2日ほどいると。餃子を山ほど作っている。夜、近所のRさん一家も来て、大勢の食事。

9月20日(日)
清人さんより気仙沼の海山物10種ほど。岬さんより野菜沢山。近所のN家に四家族が集まる。当主の誕生祝い。栄螺、伊勢海老などあり、調理。

9月21日(月)
涼しい日和にて久々、長い散歩。つつじケ丘〜国領〜狛江2万歩ほど。午後、成城仲間のYさん一家来宅。庭でバーベキューパーティー。

9月23日(水)
12時頃、富士急ハイランドバス停。高部務氏の車の迎えを受ける。沿道で雑茸の盛り合わせを購入。河口湖の別荘へ先月に続いて再訪。妹さんの家から岩魚を入手。夕食は雑茸をふんだんに入れたすき焼き、骨酒など。特に骨酒は大きなコップに1人、岩魚を2匹入れるという濃厚なもの。22時過ぎまで夫人と京都の話など。夜は寒い。

9月24日(木)←リンクします。
朝食は高部さん手製のトーストサンドイッチ。これが旨い。昨日、毎日新聞夕刊に小生の記事、大きく掲載されており、「櫟」の種谷良二氏、法政大学の高柳俊男先生他からメール届く。山荘の書棚に芥川龍之介全集あったので、久々に、短編を数編読む。昼、茸鍋(茸沢山、牛肉、仙台麩、芹、蕎麦)。「羽黒山全国俳句大会」の選。夜、〈RYOIN〉にてステーキとカルパッチョなどご馳走になる。戻ってワイン。

9月25日(金)
朝、高部さんのサンドイッチとコーヒー。9時半、富士吉田の北口本宮冨士浅間神社まで送ってもらい別れる。建物がすべて重文という凄い神社。参拝後、火祭の街道、御師町を歩く。雨の中。今年4月に公開となった御師旧外川家住宅を拝観。富士講の往時の活気がよく解る。これも重文。金鳥居下の西裏地区を歩く。戦後、米軍相手の盛り場。今も色濃く危うい雰囲気が伝わる。冨士山下宮小室浅間神社を経て下吉田駅から大月経由で帰宅。

9月26日(土)3日留守をすると郵便物や選句稿などの整理に半日かかる。店の客だった上忠さん(秋麗)、9月16日に逝去と。陽気な方であった。15時、発行所にて半年ぶりの「纏句会」。出席8人。欠席投句は6人。あと運営委員会。21時過ぎ、近くの「トミーグリル」にてワインで懇談。

9月27日(日)
昼、武蔵野探勝句会の招きで平林寺吟行。天気良し。知恵伊豆の墓所、業平塚など巡ったあと、寺の外縁を一周。16時、5句出句して解散。選句は追って。

 9月30日(水)
10時半、高尾駅。伊那北会の古城巡り。今日は八王子城跡。後北条家の支城で秀吉により落城。堅牢な山城で標高差300M以上はありそう。登山! 下の御主殿地は復元されていて見所。日本百名城に入っている。高尾駅近くの居酒屋で酒盛りをして解散。

10月


10月1日(木)
隣家の金木犀が匂い始める。「奥の細道全国俳句大会」の選。一般の部、525句、子供の部1981句あり。昨日、高尾の農家で買った里芋、谷中生姜など調理。

10月2日(金)
インフルエンザ予防接種受ける。銀行、買い物その他雑用。彗星集評仕上げて11月号の業務終了。石鍋みさ代さん(「春耕」同人)より、夏に続いて今度は結城紬の着物一式(ご主人のために作ったが一度も袖を通していないと)到来! 何とも有難いこと。

10月5日(月)
久々、神保町駅。郵便局にて銀漢の資金移動など。今年は資金繰りタイト。「ランチョン」で少酌す。

10月6日(火)
東武鉄道寄居駅へ。伊那北会で鉢形城跡へ。後北条家の支城で荒川と深沢川を利用した要害。よく整備復元している。四百数十年前の興亡の地。川越に出て天保年間創業という鰻店「川越いちのや」にて少酌。白焼佳し。後、夜の時の鐘を見て散策。2軒ほど飲み歩く。

 10月7日(水)
伶輔君、10歳の誕生日。本人の希望で桑名から取り寄せた蛤で鍋。他に鮪、蛸の刺身。最後の雑炊はとろろ昆布など入れてみたら見事! これは私の技。「街」誌同人評2回目執筆。

 10月9日(金)
数日来、台風接近で雨が続き、散歩できず。角川「俳句」12月号、「冬・新年の季語入門」の原稿にとりかかる。「銀漢」11月号の校正。全部読むので集中力を要す。「銀漢」の原稿も書く。

 10月12日(月)
11時、発行所。皆川丈人さんが盤水先生の第一句集『積荷』他を持参して下さる。武田さんと三人で「トミーグリル」でハンバーグステーキランチ。あと神田川沿いを散策し、芭蕉の関わった上水樋の跡など見る。15時、日暮里「夕焼け酒場」政三さんと31日の「銀漢亭の日」のメニュー他打ち合わせ。17時、神保町の立ち飲み酒場「魚勝」、3回目になるか。つまみが実に良い。鯛、蛸、鮪の刺身、海老の天麩羅。ついつい日本酒を四号ほど飲んでしまう。












         
    






今月の季節の写真/花の歳時記


2020年12月25日撮影 南天   from hachioji




花言葉  「私の愛は増すばかり」
南天
中国では、南天のことを南天燭(なんてんしょく)や南天竹(なんてんちく)と呼びます。これを略して南天になり、音読みしたのが和名の由来です。

姫蔓蕎麦 コトネアスター 真弓 枇杷の花 アニソドンテア
 
仏の座 Christmas wreath 南天

2020/12/26 更新