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 10月号  2018年




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 銀漢日録  今月の写真

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伊藤伊那男作品

主宰の16句








        
             


今月の目次







銀漢俳句会/10月号















  




   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 


◎一枚の寄せ書き
 皆川盤水先生のご長男、丈人さんが「家の中を整理していたら出てきたが、これは伊那男さんが持っていた方がよさそうだ」と1枚の寄せ書きの色紙を届けて下さった(写真を3ページに掲載)。全部で30人の俳人が署名しており、少し俳句を齧った者なら、おおっと驚く名前が並んでいる。堀葦男 田川飛旅子 林田紀音夫 西東三鬼 飴山實 金子兜太 香西照雄 原子公平 加倉井秋を 細見綾子 中山純子 皆川盤水 松井利彦 林徹 新田祐久 西垣修 富田直治……などなど。
 さて残念なことに色紙には日付けが無い。普通なら真中に為書きがあるものだがそれもない。書かれた時期について推理してみると、盤水先生が現代俳句協会員になったのは昭和34年(当時41歳)であり、それ以降と見る。署名の1人西東三鬼が体の不調を訴えて胃癌の診断を受けたのが昭和36年10月2日なので、それ迄の間ということになる。ここから先は『俳句の旗手 戦中戦後俳壇史』(山本健吉賞受賞作品)の著者、山田春生氏の意見を聞くこととした。氏は「風」「春耕」に所属し数々の評論で名を知られた方である。山田氏からはすぐに以下の回答があった。盤水先生は昭和33年に「風」に参加したあと、「風」の会合の折、挨拶を兼ねて色紙を持参し、古参同人に染筆を頼んだのではないか。その可能性のある会合は昭和34年11月9日の高円寺での「風」全国大会、昭和35年3月21日の細見綾子出版記念会、同7月3日「風」発行所にて香西照雄の現代俳句協会賞受賞と金子兜太の東京転任歓迎同人句会など。色紙をよく見ると墨に濃淡があり1回ではなく、日時を違えているのではないか……と。
 さて金子兜太が長崎から東京へ戻った昭和36年7月頃から俳壇は揺れ動く。第9回現代俳句協会賞の選考を巡って石川桂郎を推すグループと赤尾兜子を推すグループに分裂し、桂郎を推すグループが10月16日、俳人協会設立発起人会を開催した。事実上、現代俳句協会と俳人協会に分裂したのである。赤尾兜子を推した金子兜太は翌37年4月、この色紙にある堀葦男、林田紀音夫、原子公平などと共に「風」を退会し、「海程」を創刊した。現代俳句協会の分裂は「風」の亀裂にも係わってくるのである。このように見ると「風」分裂前の貴重な色紙であることが解る。山田氏の見解で、日付や為書きの無いことやこの色紙を盤水先生が持っていた理由も理解できる。ただ一つ、肝心要の沢木欣一の署名が無いことが不思議である。















 



  

盤水俳句・今月の一句

鶹鶹 伊藤伊那男 

眉茶鶹(まみちゃじない)蔵屋敷戸を開け放つ      皆川 盤水
 
 
 句には「喜多方にて」の前書きがあり、「眉茶はスズメ目ヒタキ科」の脚注が付いている。脇腹がオレンジで腹は白い。日本には秋に渡来する。小さな群で旧家の庭に寄ったのであろう。先生は子供の頃から小鳥に親しみ、鳴き声を真似て呼び寄せたりもしたと聞く。旅の途中「ほら、今三光鳥が鳴いたよ」などと仰しゃったが私には解らなかったことを思い出す。様々な鳥の句を残しておられるが、さすがに眉茶の句はこの一句のみである。
                            (昭和五十八年作『寒靄』所収)

  











  
彗星集作品抄
  伊藤伊那男


秋燕のひと飛びほどの木曾の空       伊藤 庄平
海開き水平線に供物乗せ          小野寺清人
潮騒をききたくて吊る貝風鈴        瀬戸 紀恵
梅雨晴や町家の中も路地のやう       清水佳壽美
どんよりと蝮日和と謂ひつべし       唐沢 静男
落とされていよいよ猛る鱧の貌       橋野 幸彦
蓴舟日はいちにちを水の上         宇志やまと
仁和寺の僧の章なり明易し         笠原 祐子
日覆の後継ぎのなき洋食屋         朽木 直
金平糖盆に散らせし星まつり        松浦 宗克
金魚らの流るるままに競られけり      中島 凌雲
心配なほどに伸びきる水着かな       中野 堯司
デパートのマネキン一斉更衣        堀内 清瀬
大寺を飲み込むやうな茅の輪かな      有澤 志峯



















彗星集 選評 伊藤伊那男

  
秋燕のひと飛びほどの木曾の空      伊藤 庄平
先日も木曾谷を歩いたが、私の育った伊那谷と較べても、この谷はいかにも狭い。特に北方からの入口の洗馬あたりは中央西線と国道十九号線と奈良井川があり、その幅だけで平地は全て取られて、家を建てる隙間などはない。極端に山が迫っているので、日の出が遅く、日没も早い。そのような木曾谷の様子を帰燕のひと飛びと捉えて見事である。このあと一気に秋色を深めていく。固有名詞が動かない。 

  
海開き水平線に供物乗せ         小野寺清人
 読者によっては一瞬戸惑うかもしれない。「水平線に供物乗せ」は、海神様に捧げるお供えの棚が丁度水平線の上に乗っているように見える、棚の高さと水平線に作者の目線が合っているということを詩的に省略しているのである。このように詠むと、本当に遥か先の海上に現れた神の目の前にお供物が届いたようにも思われてくる。どんなに科学が進歩してもお祓いをする、八百万の神々に供え物をして祈る風習が脈々と続いていることーーそうでないと落ち着かないところが日本の精神である。

  
潮騒をききたくて吊る貝風鈴       瀬戸 紀恵
 私ごとだが、随分夏の沖縄に通ったので、貝風鈴の音に馴染んでいる。聞けば、沖縄の青い海や岩に砕ける波音が目に浮かぶ。この句、もし「潮騒を聞く貝風鈴」であれば、さんざん見てきた詠法ということになるが、わざわざ「ききたくて」吊った、と一歩踏み込んだことで成功している。

  
梅雨晴や町家の中も路地のやう      清水佳壽美
 京都の町中の様子を想起する。狭い間口を入ると、驚くほど奥が深く、家によっては三和土が一番奥の坪庭の方まで一直線に続いている。横に部屋が続いており、確かに路地の一部のような錯覚を起こすこともある。そのようなところをよく観察した出色の句である。さて季語の「梅雨晴」が決まるのかどうか。「梅雨寒や」「梅雨湿り」……いやいやいずれもっといい取合せの季語が出てくるのではないか。あたためて欲しい。

  
どんよりと蝮日和と謂ひつべし      唐沢 静男
 蛇に弱い私であるが、蛇の句は嫌いではない。この句の「蝮日和」は初めて目にしたが、作者の造語なのであろう。言われてみれば、そんな雰囲気の日が想像できる。湿度の高い風の無い曇天……。その造語を使いながら「謂ひつべし」と結んでいるところもそこはかとない面白さ。
 
  
落とされていよいよ猛る鱧の貌      橋野 幸彦
東京の魚屋で鱧を見ることはほとんどない。肉の中に小骨が無数に入っている厄介な魚である。京都で独得の料理になったのは鱧が生命力が強く、内陸まで運ぶことができたことが大きい。専用の包丁と高い調理技術で高級料理に仕立てたのである。鱧はそもそも獰猛な顔立ち。落とされて一層際立ったのである。

  
蓴舟日はいちにちを水の上        宇志やまと
昔、京都深泥ヶ池で採れた蓴菜(じゅんさい)だが今は山形県の産出量が多い。底が平らな舟に乗り、手で摘み取っていく。ぬめりを包んだ芽が開いてしまうと価値が落ちるので短期間での収穫となる。舟は一日水に浮かび、太陽は一日水面を照らす。収穫日和なのである。「日はいちにちを」の措辞がうまい。 

 
 仁和寺の僧の章なり明易し       笠原 祐子
「徒然草」の石清水八幡の段で夜も明けたと……。 

  
日覆の後継ぎのなき洋食屋        朽木  直
「日覆」の季語が効いて一沫の淋しさが滲む。 
  
  
金平糖盆に散らせし星まつり       松浦 宗克
七夕のお供え。こちらは地上の星を盆に散らせる。 

  
金魚らの流るるままに競られけり     中島 凌雲
独得な金魚の糶市の風景。一箱毎に流れる中の糶。 

  
心配なほどに伸びきる水着かな      中野 堯司
おかしいけれど本当に心配な……。太ったか。 

  
デパートのマネキン一斉更衣       堀内 清瀬
 マネキンの更衣は季語?という論も出そうだが……。

 
 大寺を飲み込むやうな茅の輪かな    有澤 志峯
「大寺(・)」がやや説明的。「本堂を」位がよかろう。 
 










   











銀河集作品抄

伊藤伊那男・選

青鷺のひろぐる羽に雨意の風      東京  飯田眞理子
ひるがほや草履がつねの浜暮し     静岡  唐沢 静男
雲水の交じる山門盆踊         群馬  柴山つぐ子
海の家何かにつけて砂払ひ       東京  杉阪 大和
めくり癖ある一力の夏のれん      東京  武田 花果
黒潮の曲りつ端へ鰹船         東京  武田 禪次
旅の日を吸ひつくしたる麦藁帽     カナダ 多田 美記
五合目で信心ゆらぐ富士行者      東京  谷岡 健彦
すめらぎの悲憤こもごも男梅雨     神奈川 谷口いづみ
山蟹の苔色さして熊野なる       愛知  萩原 空木
尾道の風に昼寝や遠汽笛        東京  久重 凜子
点眼の熱におどろく晩夏かな      東京  堀切 克洋
父の日のそはそはしても始まらぬ    東京  松川 洋酔
骨揚げを待つ間遥けき雪解富士     東京  三代川次郎















         





綺羅星集作品抄

伊藤伊那男・選 

谺なき六根清浄富士詣         東京  柊原 洋征
島つ子の泳ぎは潜ることばかり     神奈川 伊東  岬
効き目ある医師の笑顔や青葉風     東京  小山 蓮子
一歩目のすべてが揃ふ百足虫かな    東京  島  織布
箱庭のいつしか故郷に似てしまふ    東京  堀内 清瀬
木洩れ日を柄の一つに夏衣       神奈川 こしだまほ
混浴と云ふも足湯や若葉谷       長野  高橋 初風
香水や巴里の歩幅で街をゆく      東京  今井  麦
先導は高麗家の当主夏祓        埼玉  大澤 静子
どこからもよく見えてゐる海の家    東京  伊藤 政三
父の日に父となる子の知らせかな    埼玉  大野田井蛙
まづ器冷やす用意を冷奴        東京  大溝 妙子
蟬捕りや電柱のまだ木の時代      東京  畔柳 海村
夕刊にこもる残暑を開きけり      神奈川 曽谷 晴子
蜘蛛の囲の雫落とさぬたわみかな    埼玉  中村 宗男
夕焼の江ノ電を入れ虚子の家      神奈川 原田さがみ
けふもまた帰つて来ぬ子飯饐える    東京  半田けい子
水馬に目方てふものあるのかと     神奈川 宮本起代子
黒南風や魚醬の匂ふ島の辻       東京  村田 重子

箸立に亡き夫の箸冷奴         東京  相田 惠子
祭笛峡の夜風となりて果つ       宮城  有賀 稲香
背を伸ばし伸して屈む草むしり     東京  有澤 志峯
溶岩塚に祝詞消え入る富士詣      東京  飯田 子貢
片蔭の凹凸多し荒物屋         埼玉  池田 桐人
山寺の磴千段に万の蟬         埼玉  伊藤 庄平
天牛を泣かせてゐたる拳かな      東京  上田  裕
浦風の机上をゆけり夏期講座      東京  宇志やまと
黒南風や脚ふみ替へて鴉啼く      東京  大沼まり子
妻すでにほたるの国へ迷ひしか     神奈川 大野 里詩
心残しつつ雨戸閉づ梅雨の月      東京  大山かげもと
秩父盆地兜太の渡る虹の橋       東京  小川 夏葉
後悔と豆飯の豆同じ数         宮城  小田島 渚
夏蒲団敷きつめ子らを敷きつめる    埼玉  小野寺清人
麦笛に返す麦笛同い年         神奈川 鏡山千恵子
鵺に矢をつがへしあたり梅雨の闇    和歌山 笠原 祐子
傷心の舌に親しき冷奴         東京  梶山かおり
揺れてゐるときも蜘蛛の巣しづかなり  愛媛  片山 一行
形代の一穢の重さ沈みけり       東京  桂  信子
もはや海へ浸すことなき素足かな    長野  加藤 恵介
重機唸る運転席の裸かな        東京  我部 敬子
蛍橋今日の蛍を追ふ起点        高知  神村むつ代
大南風船に多様な縄結び        東京  川島秋葉男
ははき木の土地も屋敷も売られけり   長野  北澤 一伯
逆光の塔据ゑ四万六千日        神奈川 久坂依里子
打水を多めに通夜の家の前       東京  朽木  直
波音のすぐそこにあるハンモック    東京  小泉 良子
藍浴衣肩の薄きをなげきつゝ      東京  小林 雅子
夜泳ぎのこの世ぐんぐん離れゆく    長崎  坂口 晴子
やや乾く三和土に積まる辣韭かな    千葉  佐々木節子
ゆつくりと暮るる稜線洗ひ髪      長野  三溝 恵子
青梅雨や御所の雨垂れ五百間      東京  島谷 高水
絵団扇に京の思ひ出煽りたり      兵庫  清水佳壽美
青鷺の御所を預かるごとくをり     東京  白濱 武子
巴里祭の歌手も年寄るコンサート    東京  新谷 房子
西陣の逃げ場なき路地油照       大阪  末永理恵子
足うらを砂逃げてゆく晩夏かな     静岡  杉本アツ子
白鷺の一羽に広き田んぼかな      東京  鈴木 淳子
隙間なきすきまへ逃ぐる油虫      東京  鈴木てる緒
わづかなる町空なれど夕立明け     東京  角 佐穂子
ほんたうの空と遊べず水馬       東京  瀬戸 紀恵
天道虫羽割りきれず傾きぬ       東京  高橋 透水
混浴と云ふも足湯や若葉谷       長野  高橋 初風
川床の灯やほどよき風と四条まで    東京  武井まゆみ
夏雨やカレーの匂ふ交叉点       東京  竹内 洋平
赤富士の砂粒残るザックかな      東京  多田 悦子
扇子屋に風をつれだち客となる     東京  田中 敬子
焼売にたつぷり辛子夕薄暑       東京  塚本 一夫
川風に通りすがりの宵涼み       東京  辻  隆夫
鳥辺野は朝から闇の走り梅雨      愛知  津田  卓
錆袋換へる梅雨入りのポンプ井戸    東京  坪井 研治
夕照の卓を真つ赤に海の家       埼玉  戸矢 一斗
大の字の滲むほど山滴りぬ       大阪  中島 凌雲
有明の黙こそよけれ時鳥        東京  中西 恒雄
膝崩すことより勧め水羊羹       東京  中野 智子
大木の母性に抱かれ蟬の鳴く      東京  中村 孝哲
父の日や父軍人の声のまま       茨城  中村 湖童
骨切りの音せせらげる祭鱧       東京  西原  舞
秋の声聴き給ふかに百済仏       東京  沼田 有希
星宿の金具しつらへ鉾立つる      東京  橋野 幸彦
参鶏湯丸丸食べて暑気払        兵庫  播广 義春
蛍狩闇の向かうに都会の灯       東京  保谷 政孝
初蟬や暁光の陰短めに         岐阜  堀江 美州
蜘蛛の囲にうらとおもてのあるやうな  埼玉  本庄 康代
松ヶ岡の松より出づる後の月      東京  松浦 宗克
打水や石の吐き出す日のにほひ     東京  松代 展枝
夕立来る広重のあの絵のやうに     東京  宮内 孝子
なむ善光あみださまかな蛍宿      千葉  無聞  齋
前触れのくんち白蛇の踊り町      東京  村上 文惠
風紋を遠景としてらつきよ掘る     東京  村田 郁子
甚平の腕が採血されてをり       東京  森 羽久衣
踏みつけて洗ふ道着の玉の汗      千葉  森崎 森平
窓越しの祭囃子に急かさるる      埼玉  森濱 直之
外す日を決めて風鈴吊しけり      長野  守屋  明
五月雨や墨絵暈しの木曾三川      愛知  山口 輝久
国生みの地の玉ねぎのふくよかに    東京  山下 美佐
爪印の落し文かや切通し        群馬  山田  礁
ふる里の風着るやうに夏衣       東京  山元 正規
漁火の沖に列なす青岬         神奈川 𠮷田千絵子
初恋の人に会ふかも蛍の夜       愛媛  脇  行雲
鬼灯市昼を裸火ともしつつ       東京  渡辺 花穂
煙に巻く蚊遣の豚のとぼけ顔      埼玉  渡辺 志水




          









     







銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男

谺なき六根清浄富士詣          柊原 洋征   
六根とは眼・耳・鼻・舌・身・意の六識を生ずる感官を言う。これを浄め福徳を得るのが「六根清浄」の声明である。この句の「谺なき」は単独峰である富士山だからこそ成立する表現で、どこからも谺は返ってこない地形を抑えているのである。同時出句の〈南風吹く南洲の像あれば吹く〉は南洲西郷隆盛を称えて見事な構成の句。「南」のリフレインも心地良く、西郷さんならきっとそうだろうな、と納得するのである。作者は鹿児島県の出身。 


  

嶋つ子の泳ぎは潜ることばかり      伊東  岬
嶋つ子の出船見送る立泳ぎ          同
作者は気仙沼大島の出身。私もこの島を四回ほど訪ねている。島出身の方々に聞くと、夏休みなどは毎日のように仲間で連れ立って海に潜り、鮑や栄螺を採り、随分小遣稼ぎになったという。つまり「潜ることばかり」や「立泳ぎ」は、スポーツとしての水泳ではなく、生活に立脚した「泳ぎ」なのである。海で生きることはできても、競泳には向かない水泳であり、風土色の出ている句、ということになる。なおこの島にも近々本土と繋ぐ橋が開通するという。 


  

効き目ある医師の笑顔や青葉風      小山 蓮子
「病は気から」と言う。治療の一つとして医者の勇気付けの言葉や笑顔は大切なものであろう。「青葉風」の季語の斡旋が心地よく効いている。同時出句の〈百円分動く自動車蟬時雨〉の遊園地の一景、〈背番号なき子等もゐて蟬時雨〉のまだもたもたしている子供達の様子を各々「蟬時雨」の季語で収めて余韻を残している。〈奥宮の屋根吊るごとく蜘蛛の糸〉は見立ての効いた技倆の高さ。 


一歩目のすべてが揃ふ百足虫かな     島  織布
どこまでが前足ならむ百足虫かな       同
 両句共百足の生態を見て作者の発見を伝えている。一句目は最初から一糸の乱れも無い事に改めて感嘆している。二句目は更に観察を深めて前足、後ろ足の境目に首を捻っている。やはり俳句は物を観察することから始まるのだということをしみじみ思う。物から教えて貰う素直な目が大事。一句目は見たままとすれば、二句目は疑問をもって観察を一層深めた成果、ということになる。


  

箱庭のいつしか故郷に似てしまふ     堀内 清瀬 
 私もこの年になると何かにつけて古里を思い出す。それも小さい頃の茅葺屋根の家や桑畑、泳いだ川、祭など……。もう戻ってこない日々がしきりに懐かしいのである。この句の作者も箱庭を設えても、どこか故郷の思い出の風景になってしまうという。郷愁溢れるいとおしい句だ。


木洩れ日を柄の一つに夏衣        こしだまほ
 木洩れ日が夏服の模様の一つになると、面白い場面を捉えた句だ。夏の日差しの強さ、日向と木陰のコントラストの強さなどが読み取れるのである。「柄の一つに」の把握に感性の高さがある。 


混浴と云ふも足湯や若葉谷        髙橋 初風          
一読して笑ってしまう句だ。「混浴」と持ってきて、「足湯」と落とす。それはそうだろう、と笑うしか無いのである。そもそも足湯の設備に「混浴」などと書いてあるわけもないのであって、作者の持つ滑稽精神に脱帽するばかりである。同時出句の〈夏木かげ待伏せいいえ待合せ〉の口語表現にも笑った。笑わせながらも人間の心理や行動の不透明さを伝えているのである。

香水や巴里の歩幅で街をゆく       今井  麦
香水が最も発達したのはフランス。さて「パリの歩幅」とはどのような歩幅なのであろうか。自覚を持って伸び伸びと生きる女性、解放された女性の歩き方、生き方、という意味であろう。巧みな措辞である。 


先導は高麗家の当主夏祓         大澤 静子
 関東地方への渡来人は大磯に上陸し、各地に入殖したという。高句麗の人々が入殖したのが埼玉県の高麗。今も高麗神社が続いている。韓国から来日した要人や文化人が必ず参拝しているようだ。その当主が先導する夏祓。歴史の一場面を垣間見るような場面である。


その他印象深かった句を次に

どこからもよく見えてゐる海の家     伊藤 政三
父の日に父となる子の知らせかな     大野田井蛙
まづ器冷やす用意を冷奴         大溝 妙子
蟬捕りや電柱のまだ木の時代       畔柳 海村
夕刊にこもる残暑を開きけり       曽谷 晴子
蜘蛛の囲の零落とさぬたわみかな     中村 宗男
夕焼の江ノ電を入れ虚子の家       原田さがみ
けふもまた帰つて来ぬ子飯饐える     半田けい子
水馬に目方てふものあるのかと      宮本起代子
黒南風や魚醤の匂ふ島の辻        村田 重子












               

 



 
星雲集作品抄
伊藤伊那男・選

秀逸     

ソフトクリームひと舐めピサの斜塔めく 東京  保田 貴子
ブランコを漕ぐ炎帝に蹴りを入れ    広島  長谷川明子
一差しは夏の神楽か烏蝶        東京  星野 淑子
鉛筆はとがらせたまま夏休み      東京  島谷  操
長い目でみて草取はしない主義     千葉  白井 飛露
呼び鈴は空耳百日紅白し        東京  福永 新祇
撫で牛の照り黒々と夏の雨       東京  大住 光汪 
夕暮の明るさ残し遠花火        東京  山田  茜
海光を手繰り寄せつつ若布刈る     宮城  齊藤 克之
半夏生耳のうしろの湿りがち      東京  岡城より子
木戸口を背中で開けて鮎届く      長野  坂下  昭
透明な中に角あり心太         東京  豊田 知子
どよめきにたばしる火勢大文字     神奈川 中野 堯司
酒樽が太鼓に代はる祭かな       埼玉  萩原 陽里
薄暑光西陣縦と横の路地        静岡  金井 硯児

車窓より夏帽振れば祖母遠し      埼玉  秋津  結
草引くやただ名を知らぬ草として    神奈川 田嶋 壺中
夏雨や枯山水に波の音         東京  田中  道
蛍飛ぶ闇に起伏のあるごとく      東京  長谷川千何子
紅灯の巷は遠しさくらんぼ       京都  三井 康有







雲集作品集抄

            伊藤伊那男・選

夏惜しむ洗ひざらしの運動靴     東京   秋田 正美
音楽に乗り噴水の跳躍す       神奈川  秋元 孝之
送火や焚いてはひとつ老いてゆく   東京   浅見 雅江
濁流に浮沈の行方七夕竹       東京   尼崎 沙羅
細路地に水鉄砲の古戦場       神奈川  有賀  理
朝毎に青鬼灯の色をみる       愛媛   安藤 向山
門灯に罠仕掛けゆく女郎蜘蛛     東京   井川  敏
草取の跡はこれかと言はれたり    東京   生田  武
陽に透ける殻の薄さや蝸牛      長野   池内とほる
水鉄砲打たるる役にすぐ替はる    東京   伊藤 真紀
木洩れ日や梅干す笊の古色たり    神奈川  伊藤やすを
白南風に傾き走る土讃線       高知   市原 黄梅
人いきれする始発バス山開      埼玉   今村 昌史
合歓の花はるか彼方に瀬戸の海    愛媛   岩本 青山
吹き抜くる風の自在や海の家     東京   上村健太郎
見物の人の目に咲く花火かな     長野   浦野 洋一
花々の皆うなだれて土用凪      群馬   岡村妃呂子
南吹く潮目の色の際立ちて      神奈川  小坂 誠子
麦の秋小学校の門沈む        京都   小沢 銈三
子蜘蛛の囲雨滴小さきを並べをり   埼玉   小野 岩雄
隠し湯とおぼしき辺り山法師     静岡   小野 無道
一人来て山の湯宿の灯の涼し     東京   釜萢 達夫  
さくらんぼ届き珠玉を暫し観る    東京   亀田 正則
鯖雲やへしこの味も若狭なる     福井   加茂 和己
ペディキュアに貝を描きて素足かな   長野  唐沢 冬朱
提灯を灯し祭へ男下駄        神奈川  河村  啓
托卵を終へし郭公声澄みて      長野   神林三喜雄
仏法僧不乱の翼飛び出しぬ      愛知   北浦 正弘
万緑の暗闇坂と無縁坂        神奈川  北爪 鳥閑
美しき黄金比ありビール注ぐ     東京   北原美枝子
水槽の灯籠つつく熱帯魚       東京   絹田  稜
川の面のぎらつく日射し風死せり   東京   久保園和美
母の手を引いて茅の輪の厄落とし   東京   倉橋  茂
童等の声に目覚むるキャンプ場    群馬   黒岩伊知朗
水打ちて風の生まるる昼下り     群馬   黒岩 清女
城壁に夢を残して青楓        愛知   黒岩 宏行
板の間に残る足跡梅雨湿り      東京   黒田イツ子
かみきりの日がな一日身を軋る    神奈川  小池 天牛
出荷する青鬼灯に功徳あれ       群馬  小林 尊子
天牛や髭の範囲も我が身とし     東京   小林 美樹
梅雨晴間神も御座すや岩木山     神奈川  阪井 忠太
花茣蓙や負けぬ彩り昼餉にも     東京   佐々木終吉
叱られて空泣きの子やさくらんぼ   群馬   佐藤 栄子
読経の木魚と鈴と扇風機       群馬   佐藤かずえ
よちよちと一歩踏み出す風青し    群馬   佐藤さゆり
あめんぼを跳び越してゆくあめんぼう 東京   清水美保子
銀座線鬼灯市の帰りらし       埼玉   志村  昌
鬼百合や佐渡の鼓童の乱れ打ち    神奈川  白井八十八
ひまはりの強さ優しさ母想ふ     東京   須﨑 武雄
葉桜や故郷出でて半世紀       岐阜   鈴木 春水
那覇の夜アロハ見立てぬ我八十路   群馬   鈴木踏青子
潦底の測れぬ五月闇         愛知   住山 春人
くるぶしの見え隠れして藍浴衣    千葉   園部あづき
光陰は滑らかに過ぐ百日紅      埼玉   園部 恵夏
さくらんぼまた振つてみむ鈴のごと  東京   田岡美也子
男らの釣果競ひし夜釣船       東京   髙城 愉楽
絽羽織の僧改札を急ぎ足       福島   髙橋 双葉
東北路鉄風鈴の音を聞く       埼玉   武井 康弘
山並みの間近に見えて梅雨晴間    三重   竹本 吉弘
梅雨じめる辻の地蔵の前垂れも    東京   立崎ひかり
夕焼に下駄投げあげし頃ありて    神奈川  多丸 朝子
大口をあけて目薬梅雨の明け     東京   手嶋 惠子
躙口脇の小さき蚊遣香        東京   辻本 芙紗
濁しつつ潦踏む御所の梅雨      大阪   辻本 理恵
ビードロの江戸風鈴や軒の風     神奈川  長濱 泰子
あと少し夢跡残す寝汗かな      大阪   永山 憂仔
来し方や再会もまた泡盛で      長野   蜂谷 敦
燕の子新築の軒飛び立ちぬ      神奈川  花上 佐都
田草引く朝の山河に沈みつつ     長野   馬場みち子
光の輪従へ流る水馬         東京   福原 紀子
ジャズ喫茶埃が揺れて熱帯魚     千葉   深澤 淡悠
きゆつきゆつと幼子の靴夏来る    神奈川  星野かづよ
夕富士の田川を舞ふや蚊喰鳥     神奈川  堀 英一
厨窓真赤に染まり梅雨夕焼      東京   牧野 睦子
客を待つ背丈も同じ朝顔市      神奈川  松尾 守人
五月雨や軋む雨戸を力づく      愛知   松下美代子
両の手で味はひ尽す新茶かな     東京   八木 八龍
踏み入れば声の迷路や虫の原     東京   家治 祥夫
地上絵を描くかに滑る水馬      東京   矢野 安美
盛り場の眠らぬ街の熱帯魚      東京   山口 一滴
喜雨うけて高原の畑動き出す     群馬   山﨑ちづ子
予報士の顔の曇りや梅雨に入る    神奈川  山田 丹晴
旅行誌のテーブルにある梅雨の明け  静岡   山室 樹一
木斛の花惜しみなく土に降る     高知   山本 吉兆
短夜や昨夜のつづきを読みふける   群馬   横沢 宇内
日盛りや大寺に僧の声もなし     神奈川  横地 三旦
半夏雨箱根に雲の切れ間かな     神奈川  横山 渓泉
桜桃忌青春の日の文庫本       千葉   吉田 正克
畔道の直角形や青嵐         山形   我妻 一男
青林檎齧りながらのビートルズ    神奈川  渡邊 憲二
昼寝して指の先まで無力なり     東京   渡辺 誠子
昼寝して畳に残る顔のあと      東京   渡辺 文子













         



   









     





星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

ソフトクリームひと舐めピサの斜塔めく  保田 貴子
面白い句であった。確かに舌の圧力で傾いてしまうことはよくあるだろう。それをピサの斜塔に見立てたのが手柄である。この句では「ひと舐め」の措辞が決め手となった。同時出句の〈草取りの小憩の間も草むしり〉は勤勉な人の心理を摑んでいる。〈天牛や己に鞭を振るふかに〉も観察の中に独自の見解を持込んだようだ。〈波に触れぬままにひねもす海の家〉は海辺は好きだけれど、水着を濡らすのは嫌だという心理がうまく詠みとめられている。巻頭を取るには一句だけ突出していても駄目で、粒が揃っていることが肝要。そうでないとその作者の将来が読めないのである。 


ブランコを漕ぐ炎帝に蹴りを入れ     長谷川明子
ブランコも季語だという人がいるかもしれないが、この句は炎帝。必然的な季重なりである。「炎帝に蹴りを入れ」が面白いところだ。今年の夏の暑さなどを思い返すと実感がある。真昼の公園の子供達の歓声が聞こえてくるようである。同時出句の〈サングラス景色さびしくなりにけり〉は、「さびしい」という言葉の斡旋が感覚の良さである。レンズを通して一転して暗い景色に変るところをそのように捉えたのである。 


一差しは夏の神楽か烏蝶         星野 淑子
 烏蝶―すなわち黒揚羽蝶―の鷹揚な舞い方を神楽舞のようだと捉えたのが手柄である。「烏(●)蝶」としたところが神楽への導線である。「一差しは」の斡旋もうまい。同時出句の〈子の電話より夏風邪を貰ふとは〉も「貰ひけり」ではなく「貰ふとは」と驚きの表現にしたのがうまいところだ。〈形代を委ねむ禰宜の掌〉は、「委ねむ」にこの禰宜に預けても大丈夫だろうか、という一抹の不安を滲ませているのが俳味。一語一語を大事に詠んでいるのがいい。


鉛筆はとがらせたまま夏休み       島谷  操
 結局勉強をしないまま夏休みが過ぎていく、ということであろう。私にも覚えがある。夏休みも最後の頃になると新聞をひっくり返して天気の確認をして日記を埋めたりもした。そんなこと全てを「とがらせたまま」に集約して表現しているのである。


長い目でみて草取はしない主義      白井 飛露
 草取は雑草との長期戦である。一回毟っても敵はすぐに芽を伸ばす。結局ゲリラ戦のようなもので、長期展望に立ってこまめに対処するか、手を付けずに放置するかを初期に判断しなくてはならない。作者は「放置」の判断をしたのである。このようなことが五七五に納まっていることが技倆である。同時出句の〈絵日記に向日葵に背を抜かれしと〉もその童心がいい。


呼び鈴は空耳百日紅白し         福永 新祇
これは私の個人的な感覚だが、満開の百日紅を見ると、周囲の音が無くなってしまうような気持になる。多分この作者も同様の感覚を持っているのではないかと思った。蟬の声も自動車の音も消えたような思い‥‥無声映画のような、そんな感覚である。「呼び鈴は空耳」の表現でその様子を伝えているのである。「白し」の結びで「空耳」が強調されてくるように思う。 


海光を手繰り寄せつつ若布刈る      齊藤 克之
 若布を採取するのは「海光」を手繰り寄せること、と言われると確かにそうなんだろうと納得する。光を寄せ、光を弾く。作業は大変だろうが、美しい光景である。同時出句の〈一湾の沖に島あり海霧晴るる〉〈浜のカフェー小窓高きに夏かもめ〉も海辺の生活をきっちりと捉えていて各々言葉に無駄が無い。そのことによって句に力が籠るのである。


木戸口を背中で開けて鮎届く       坂下  昭
 この句を見て蕪村の〈鮎くれて寄らで過行く夜半の門〉を思い出した。鮎という魚にはそのような感覚が合うのであろうか。釣人も急いでおり、素早く届けて挨拶もそこそこに去っていく。掲出句は「背中で開けて」に自慢の鮎を大事にしていることや、それを一早く届けようという仲の良さなど人間関係までもが伝わってくるのである。同時出句の〈夕端居口の重たき者同士〉〈貝風鈴信濃の風に馴染み初む〉も佳品である。俳句の骨法を摑んでいる。


薄暑光西陣縦と横の路地         金井 硯児
西陣の地名を十分に生かした句だ。縦糸と横糸で布は織られていくのだが、西陣界隈も京の一角であるだけに明確に町は縦横に仕切られている。つまり町割そのものを織物に、道を糸に見立てて成功したのである。 

その他印象深かった句を次に


 

車窓より夏帽振れば祖母遠し       秋津  結
草引くやただ名を知らぬ草として     田嶋 壺中
夏雨や枯山水に波の音          田中  道
蛍飛ぶ闇に起伏のあるごとく       長谷川千何子
紅灯の巷は遠しさくらんぼ        三井 康有





















伊那男俳句  


 伊那男俳句 自句自解(34)
           
落葉焚くはじめの煙濃かりけり

 今の東京では落葉焚きなどが許される環境ではない。境内のある寺や神社などでも近隣から煙が流れることへの苦情が出て難しいという。そんなわけでこれは昔の思い出の句である。当時は車もほとんど通らないので各家が道の前で掃き溜めた落葉を燃やしたし、町内の世話好きなおじさんが子供を集めて――というよりも子供は外で遊ぶものであり、何も言わなくても自然に集まってきた――焼芋を振舞ってくれたりしたものだ。焚火の様子を思い出すと、最初は燻っていてなかなか火の手が上がらない。思い切り濃い煙が出たあとようやく炎が見え始めるのであった。そのようなことを詠んだのだが、句会では思いの外点数が入り、いい写生ができた句だと言われた。この句は結社によっては只事俳句として黙殺されてしまうかもしれない。発見があったとみるか、科学的にも当り前の現象を詠んだだけだ、とみられるか、ここが俳句の評価基準の別れ目となるのであろう。 
 
 公魚を売る軒先に比良の雪

20代後半から30代は、妻の京都の実家の帰省に合わせて一人で滋賀県をよく歩いた。最初は歴史的観点からの散策で、渡来人の足跡や近江朝・信楽宮などを辿ったりしていた。30代前半に俳句を始めてからは俳句的観点も加わり、芭蕉の跡を訪ねたり、特に森澄雄の近江句に惹かれて、別の興味も深まった。森澄雄は昭和四17年、53歳の時、加藤楸邨とシルクロードの旅をしたが、旅では一句もできず、サマルカンドの幕営で芭蕉の〈行春を近江の人とおしみける〉だけが頭の中を支配したという。帰国後「澄雄の近江狂い」といわれるほど近江の旅が始まったのである。私はそれほど熱心ではないが、澄雄句の情景や雰囲気が目に浮かぶくらいには歩いたものである。さて掲出句は湖西堅田、浮御堂のあたりの句である。公魚と比良の雪という季重なりの句である。私は基本的に季語は一つで作ることを自分に課しているが、無意識に生まれた季重なりの句となったものだ














  
   


 



銀漢の絵はがき


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銀漢亭日録

伊藤伊那男

7月

7月17日(火)
仕事休みとして、今日も京都。7時過ぎ、「珈琲所コメダ珈琲店」にてコーヒーとトースト。快晴。東京では本日、私の第三句集『然々と』の発送。四条烏丸に8時30分から陣取り、長刀鉾の出発を待つ。十基ほどの巡行の出発を見てホテルに戻り、荷を持って今日宿泊の「相鉄フレッサイン京都四条烏丸」。町へ戻って再び籤改めと、四条河原町角の辻廻し。最後の船鉾通過まで見る。13時過ぎ、祇園の「花咲」で昼食。鱧から始まってなかなか充実した料理。15時まで。八坂神社の神幸祭までの間、大谷祖廟の待合室。八坂下の喫茶店などで涼む。18時の三基の神輿の出陣を送り、西陣の居酒屋「神馬」に。若鮎の塩焼き、鱧などの刺身、ずいきの煮物、鰊と茄子、特大車海老、鯖寿司、鯨ベーコンなどなど。あと向かいの西陣京極の中の「鳥どり」。水茄子、鶏刺しなど。

7月18日(水)
ホテルでゆっくり。9時、「高木珈琲店」でモーニングセット。今日も極暑。14時過ぎ、東京に戻りそのまま「銀漢亭」に入る。仕込み。皆川丈人、文弘さん来店。「三水会」5人。娘婿の斎木君、昔の職場仲間八人で。通夜の帰りと。阪西敦子さん、小川洋さん。

7月19日(木)
黒岩徳将さん幹事で本阿弥書店の千倉さん、仏留学の送別会。12人ほど。入れ替わりに「銀漢句会」あとの19人。私の句集出版の祝いとてヴーヴクリコ2本開けて乾杯して下さる。

 7月20日(金)
「蔦句会」選句。あと9名店。営業21時までとし21時半、小野寺清人さんと、千葉克彦さんの車2台に8人分乗し、気仙沼へ向かう。到着までほぼ睡眠。5時過ぎ、岩井崎の夏霧の中の幻想的な朝日を見る。6時、気仙沼港の鰹の水揚げを見る。カジキマグロやクロマグロも揚がる。7時、市場前で朝食。あとクラシックなジャズ喫茶「ヴァンガード」にて珈琲。天井まで津波が来たと聞く。
フェリーで大島に渡り、亀山山頂。10時、海開きを見る。市長を紹介していただく。龍舞崎に寄り、故千葉薫さん宅訪問。大島汽船経営の千葉さんはかろうじて津波を逃れ、高台に家を新築。「伊那男先生に一度来てほしい」とおっしゃっていたとのことで、今年訪ねることにしたもの。ところが、4月に88歳で逝去された。仏前に合掌。千葉家では、以前訪問の折りと同じ、キリンラガービールとまんぼう、鮑その他の刺身など用意して下さっていて、献杯する。
13時時過ぎ、小野寺和人(一砂)さん宅訪問。庭にテントが設営してあり、すぐバーベキューパーティーに。まず、特大の帆立貝。そこへ仙台の小野寺信一さんからの栄螺、北海つぶ貝、蛤、北寄貝の特上品の宅急便が到着。仙台「利助」の牛舌も! その頃、電車で来た仲間、気仙沼港にあった銭湯「亀の湯」の元ご主人・齋藤克之さん(「銀漢」会員)、その他も集まり、20人ほどの大パーティーとなる。その後、家の中で、一砂さんの燻製、山盛りの海胆、鮑。16時頃まで酒盛りは続く。宿の「石田屋」へ入りすぐに夕食。平目、あいなめの刺身。海胆だけ満載した舟などなど。身動きもできないほどの供応にあずかる。唐沢静男君も久々の旅で同室。21時にはばったり寝てしまう。

7月22日(日)
5時過ぎ起床。風呂。朝食。ビール。孫が生まれたのでひと足先に帰るという唐沢君を送る。10時、食事処桜田にて句会、13人。5句出し。あと昨夜の宴会でお会いした牡蠣養殖のヤマヨ水産小松武さんを訪ね、舟で養殖場の案内をしていただく。大島に架かる橋の下も航行してもらう。一旦、一砂さんの家に戻り、お別れのビール。清人、一砂、克彦さんと港で別れ、気仙沼へ。魚市場で買い物し、大船渡線で一ノ関、新幹線で東京へ。

 7月23日(月)
店、一茶研究のアメリカ人、ディビットさん来店。今井肖子、阪西敦子、黒岩徳将さんなど。「演劇人句会」7人。

7月24日(火)
11時30分、「咸亭酒店」。「萩句会」の方々が私の句集出版記念のお祝いランチに呼んで下さる。花束、祝い金なども。相沢文子、対馬康子さん。山崎祐子さん「風」時代の仲間と「閏句会」7人(藤森荘吉さん)。洋酔さんの「ひまわり句会」あと9人。私の句集出版祝いにシャンパンで乾杯して下さる。

7月25日(水)
「雛句会」11人。ヴーヴクリコで私の第三句集出版を祝って下さる。ほかは閑散。

7月26日(木)
大溝妙子さん、江戸川区の俳句仲間と4人。「月の匣」水内慶太氏、新潟帰りの6人、など。

7月27日(金)
「金星句会」。

 7月28日(土)
10時前の新幹線にて軽井沢。駅は霧の中。しなの鉄道にて小諸。「こもろ・日盛俳句祭」へ。小諸では早速「笊蕎麦 刻」へ。田舎の大盛り。13時30分より句会。小島健、窪田英治氏と一緒のクラス。シンポジウム、小パーティーあと、例年行く「花むら」。奈良から来た「南柯」の桃さん他五名。山田真砂年さんと。22時には寝る。小諸グランドキャッスルホテル。

7月29日(日)
ゆっくり起床。8時30分、朝食。雨上がり、徐々に晴れていく。同人集の選句など。11時30分笊蕎麦 刻」今日はさらしな大盛り。麦、羽久衣、井蛙さんもう飲んでいる。13時30分より句会。小島健、中西夕紀さんと。15時30分、「北軽井沢句会」の車2台迎えに来て下さり、一斗、井蛙、麦、羽久衣、政三、まほで嬬恋村の柴山つぐ子家へ向かう。日帰りで洋酔、展枝、いづみ、中野智子、川島秋葉男さんも合流。いつもながらの一大ガーデンパーティーとなる。1時間30分あと、5句出しの句会。約30名。1時間30分ほどで大急ぎで済ませ、21時5分の新幹線へ。恒例ながら、北軽井沢句会の厚いおもてなしに感激!

 7月30日(月)
同人集選句急ぐ。店、堀切君のパリ時代の友人達5人ほど。パリへ留学する千倉さんなど。「銀化」の梅田津さん、峯尾文世さん4名、勉強会。ふらりと来店した声優のトビー上原さん、句会見学に来ると。

 7月31日(火)
神保町駅で武田花果さんに同人集の選句稿渡す。店は超閑散にて20時30分に閉める。帰宅して桃子と酒盛り。四方山話。

8月

 8月1日(水)
同人集選評。彗星集選評書いて9月号終了。店「宙句会」あと16人。「きさらぎ句会」あと7人(私の句集出版にヴーヴクリコで乾杯して下さる)。水内慶太さん「すしの弥助」の鯖寿司、穴子寿司など沢山持って来て下さる。「宙句会」に振る舞う。「きさらぎ句会」はてる緒さんのちらし寿司あり、絶品!

 8月2日(木)
発行所、山崎祐子さん(「りいの」)グループに句会会場貸し出し。あと7名店にて親睦会。あと「十六夜句会」終わって店に7名。小川洋、竹内宗一郎さんなど。

8月3日(金)
あ・ん・ど・うクリニック。今日は血液検査も。店、「大倉句会」あと16人。

8月4日(土)
10時、発行所にて運営委員会。昼、「大戸屋」の豚カツ。13時、湯島の全国家電会館にて「銀漢本部句会」。52人。あと「はなの舞」にて暑気払いの会。30数名参加。

8月5日(日)
「春耕同人句会」。あと暑気払いの会、30人ほど。あと、池内、窪田氏など10名ほどでもう一軒。このあと第一日曜は「俳句大会」などの行事が入っていて12月まで出席できない。

 8月6日(月)
さん月1回のアルバイト初日。うさぎさんフォローしてくれる。麦さんを囃す客多数。毎日新聞森さん久々。

8月7日(火)
那北高校同期の竹中君。神田生まれの友人と来店。竹中君は日本ハウズイングのナンバー2に立身して退任。気仙沼旅行の反省会。小野寺清人さんが帆立貝、海鞘、石清水八幡宮の鯖鮨、烏賊その他の食材を用意してくれる。旅行のメンバーなど10人ほど集合。

 8月8日(水)
台風襲来中。発行所「梶の葉句会」。店、閑散。風雨強まっており、18時45分、閉める。帰宅すると能登の撮影から宮澤が戻っていて食事。

8月9日(木)
「天為」編集部、暑気払いの会6人。「極句会」あと14人。大住君久々。ヴーヴクリコで乾杯。

8月10日(金)
 閑散の一言。21時、閉めて数人で「ふくの鳥」で飲む。久々、ホッピー。これから6日間の夏休み。

8月11日(土)
エッセイ、「俳句αあるふぁ」の料理ページの原稿など。一と月前に本棚が崩れてそのままにて、解体修理。汗流す。夜、京都の亡妻の従姉妹来宅。女流画家で京都造形芸術大教授、川村悦子さん。火鍋他の食事会。

8月12日(日)
家族は八景島シーパラダイスへ。第5回本にまつわる俳句大会選句。本棚の修理がまだ続き、散歩をかねて補強材を買いに。夕食の用意も。

 8月13日(月)
久々の休暇を満喫している。角川「俳句」10月号の俳句基礎用語辞典の解説。原稿五枚ほど執筆。強烈な雷雨。夕方、買い物をして夕食のステーキ他用意。孫の高一、莉子がソウルに短期留学している同級生を訪ねて数日行っていいか?と言い、母親は即座にOK。父親は戸惑う。結局、15日出発となる。

8月14日(火)
快晴。10時過ぎ、岩野歯科で定期点検。奥歯に詰めていた銀が無くなっていると。ああ、また金がかかる……。本屋、スーパーマーケット廻って戻る。今日はネイリストが来ていて長女の仲間何人か。夕方からヘアメイクの中川さん来てカットして貰う。二家族ほども来て、中川さんも一緒に夕食会に。

8月15日(水)
終日家。家族は甲府の宮澤の母上訪問と。休暇中やろうと決めていたこと全部終了。

 8月17日(金)
発行所「蔦句会」あり選句。あと九人店。水内慶太氏、「すしの弥助」の穴子、鯖の太巻を土産に来て下さる。閑散にてゆっくり話。21時30分、閉める。帰宅すると成城ママ2人来ていて酒盛り中。結局24時まで一緒に飲んでしまう。

8月18日(土)
休養。夜、莉子ソウルから帰宅。

 8月19日(日)
食材買って店へ搬入。17時30分、亀戸「すしの弥助」。金曜日に水内慶太氏が来店した折り、鈴木忍さん一家と食事をするが、来ないか、と。たまたま居合わせた天野小石さんも誘われ、銀座のワインバー経営のご夫婦もいて大人7人、子供11人。料理は出てくる出てくる。特に鮑のステーキ、刺身、のどくろの煮付……と出色。あと西大島の「ジェイクラブ」にてウイスキー。ともかく至れり尽くせりの










         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2018年10月20日撮影 穭田  HACHIOJI




    
△穭田
「刈り取った稲の株から再び生えてくるひこばえを穭(ひつじ)といい、一面に穭の生えた刈田を穭田という。乾いた田の面を吹く風に弱々しい青い葉が揺れているのは晩秋の寂しい眺めだが、中には青々と葉が茂って、小さな穂をつけるものもあリます。
金木犀 秋明菊 烏瓜 藤袴 背高泡立草
穭田
写真は4~5日間隔で掲載しています。 
2018/10/20   更新


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