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 9月号  2019年



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伊藤伊那男作品

主宰の8句










        
             

 
          

今月の目次






銀漢俳句会/2019/9月号










  




   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 


◎遷宮の思い出

 秋の伊勢吟行会が近い。私は吟行の心得として、歴史のある土地については、しっかり文献を調べて臨むのが良いと思っている。逆に、たとえば自然だけがある名も知らぬ島に行くならば直感だけで詠めばよいと思っている。だから是非伊勢の勉強をしておいて欲しいと思う。
 私の伊勢の思い出を少し綴っておく。
 私の娘婿が宮澤正明という写真家で、平成25年の式年遷宮の公式カメラマンとして、十数年にわたって撮影した。私はその尻馬に乗って何度か参拝をしたが、最大の思い出は「お白石持行事」への参加であった。この行事は伊勢の旧神領民が取り仕切るもので、遷御直前の新宮御敷地に白石を敷き詰める。宮澤がずっとお世話になった、禰宜で広報部長であった河合真如先生の御温情で私もこの行事に呼んでいただいたのである。白石を満載した木桶を積んだ巨大な奉曳車をお払い町の参道を掛け声と共に宇治橋まで曳行する。その先頭車「太一」の綱を持たせて戴いた。到着のあと布巾の上に白石を乗せて戴き、新築なった新御敷地に入り石を納めるのである。新宮は素木造りであるが、磨き上げてあるからであろうか、神威であろうか、光り輝く別世界であった。遷御が終れば以降二十年間、天皇陛下も入ることの無い神域に入ることが叶ったのである。
 その遷宮は第62回であった。戦国時代などに中断、延期された時期もあったそうだが、連綿として持統天皇以来千三百年ほどの歴史を持つのである。遷宮は内宮、外宮の敷地内の一切の宮居、別敷地の月読宮、風日宮その他数え切れない宮居が新造される。そればかりではなく刀剣などの供物や装飾品、神官の装束や木沓に到るまでことごとく新調されるのであるから、気の遠くなるような壮大な祭事である。このような行事が連綿と続いている国は多分他には無く、日本人は誇りを持って知っておくべき貴重な文化遺産である。重ねて言うが、その神宮に築二十年を超える宮居が一つも無いというのが凄いことである。国宝にも世界遺産にもしようが無い不思議な空間を形成しているのである。
 そこからも解るように神宮の根本思想は「常若(とこわか)」である。常に若く甦ることを言う。自然との共生、再生の思想である。
 吟行会には前述の河合真如先生に案内をお願いした。先生は高校生の頃、公害問題に直面して、自然との共生思想を持つ神道に共感し、神宮研究所に入学。神宮に奉職された。神宮の語り部として第一人者であり、伊勢の生き字引と言ってもいい方である。伊勢吟行が楽しみである。













 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男
鵲や草の匂ひの石仏            皆川 盤水

 
年表を見ると九月に慶州・友鹿洞・扶余・ソウル吟行とある。八十歳である。先生の海外旅行はこれが最後だが、お元気である。この句の石仏は石窟庵というよりも名も知らぬ路傍の石仏と見た方が味わいがある。「草の匂ひ」がうまい。(かささぎ)は九州では見掛けるが、関東では見たことが無い。韓国を旅した折「カッチー」と呼んでいたことを思い出す。鵲は天の川に羽根を展べて橋を渡すという伝説から、秋の季語になったという。
                           (平成十年作『高幡』所収)













  

彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

玉苗を放り山影散らしけり         萩原 陽里
レコードの無音部の音梅雨じめり      保田 貴子
夏霧の変幻を見せ伊吹径          瀬戸 紀恵
木曾節の山万緑となりにけり        田中  道
海のなき町に買はれて貝風鈴        堀内 清瀬
水打ちて猛る城下を鎮めをり        谷口いづみ
母の家にききほれてゐる遠蛙        多田 美記
青胡桃入れて水車の水ゆたか        小野寺清人
飾り塩長良の鮎は見目もよし        渡邊 憲二
飛ぶがごと雲の早さや菜の花忌       齊藤 克之
くたくたの水の残れる夏料理        萩原 空木
荒梅雨を容れるだけ入れ神田川       秋津  結
囀りや廃坑にある小鳥籠          中村 孝哲
奥耶馬の底ひもつるる恋蛍         久重 凛子
更衣して生意気な膝小僧          中島 凌雲
山の田に小分けしてゆく青田風       小野 岩雄
湯上りの宿下駄だるし濃紫陽花       池田 桐人
姫神の翠黛の峯氷室開く          桂  信子
宇治暮れて鵜縄さばきの冴えを見る     堀 英一
うすものや畳紙に拡ぐたたみ皺       小林 雅子












彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選


玉苗を放り山影散らしけり         萩原 陽里
 何といっても「玉苗」がいい。「玉苗」の「玉」は美称で、大切なものを誉め称える時に使う措辞。水を張った田に田植のための苗の束を放ると、水に映った山影が崩れたという。いよいよ田植の始まりである。山の神が見守っているのだ。自然を宥め、自然から恩恵を貰う、という日本の農業の伝統が生きている句である。「玉苗」の季語に切実な祈りが籠められているし、山影には神の影がある。

  
レコードの無音部の音梅雨じめり      保田 貴子
 「レコード」も絶滅していく言葉であるかもしれない。回転している円盤に音を取り出す針を置くのだが、音が出るまでの助走の部分のことをこの句では「無音部」と言うのであろう。作者の造語であるのか、レコード愛好家では常識であるのか、は知らないが、よく理解できる。その無音部にも音がある、というのがこの句の眼目。レコードも針も古びているのであろう。雑音が生じているのだ。「梅雨じめり」の季語で、空気の重さなども感じられ、いかにもそうだろうな、という実感を持つ。

  
夏霧の変幻を見せ伊吹径          瀬戸 紀恵
 深田久弥の『日本百名山』の中で、一番低いのが、筑波山、三番目に低いのが、この伊吹山である。1377米。だが、日本海からの冷気が直接ぶつかる地勢なので、周辺に大雪を降らせる厳しい山であり、薬草も多く、また日本武尊を死に到らしめた山であり、そのような点から百名山に名を連ねているのである。「夏霧の変幻を見せ」が前述の特徴を捉えているようだ。地名が動かない秀句。

  
木曾節の山万緑となりにけり        田中  道
 「なりにけり」は調べを整えるだけの措辞で意味を持たない。つまり「木曾の山は今万緑だ」というだけの句なのだが、「木曾節(・)」とあるところが臍で、この「節(・)」によって句が大きく広がりを見せるのである。「木曾のなあ中乗りさん木曾の御嶽山はなんじゃらほい夏でも寒いよいよいよい」という歌詞で、読者の胸に具体的な風景が広がる仕掛けである。

  
海のなき町に買はれて貝風鈴        堀内 清瀬
お土産の貝風鈴の行方を詠んで、物語性がある。山国で鳴る貝風鈴が、何やら人格を持っているような、環境の変化に「大丈夫かい、淋しくないかい?」と声を掛けたくなるような可笑しさを醸し出しているようだ。 

  
水打ちて猛る城下を鎮めをり        谷口いづみ
 西南戦争以来、城下を巡っての攻防戦は無い。が、様々な戦歴を終た城下町には今も無念の情などが残っているのだ。ただ暑いだけでなく、歴史を鎮める打水である。

  
母の家にききほれてゐる遠蛙        多田 美記
生まれた家に戻った安堵感がいい。遠蛙に望郷の念が深い。 

  
青胡桃入れて水車の水ゆたか        小野寺清人
川沿いに自生する青胡桃。水車に巻かれて美しい。

  
飾り塩長良の鮎は見目もよし        渡邊 憲二
短冊に書いて鮎宿に贈りたいような御当地褒めの句。

  
飛ぶがごと雲の早さや菜の花忌       齊藤 克之
司馬遼太郎忌にその作品名も組み込んだ技のある句。

  
くたくたの水の残れる夏料理        萩原 空木
夏の宴会の名残がよく出ているようだ。

  
荒梅雨を容れるだけ入れ神田川       秋津  結
今でも暴れ川になる神田川。「容れるだけ入れ」の臨場感。 

  
囀りや廃坑にある小鳥籠          中村 孝哲
 昔はガスの感知に小鳥を使ったという。これは外の囀。

  
奥耶馬の底ひもつるる恋蛍         久重 凛子
 大分県の耶馬渓。「底ひ」の表現で渓谷の深さが出た。

  
更衣して生意気な膝小僧          中島 凌雲
 「生意気な膝小僧」がいい。活発な少年の姿が浮かぶ。

  
山の田に小分けしてゆく青田風       小野 岩雄
 「小分けしていく」が棚田の様子をうまく捉えた。

 
 湯上りの宿下駄だるし濃紫陽花      池田 桐人
 梅雨時の湿度の高さが「だるし」に出た。所在無さがいい。

  
姫神の翠黛の峯氷室開く          桂  信子
この「翠黛」は姫のみどりの眉墨か。品位と調べのよさ。

  
宇治暮れて鵜縄さばきの冴えを見る     堀  英一
宇治川は急流で知られる。だからこその縄さばきか。 

 
 うすものや畳紙に拡ぐたたみ皺      小林 雅子
 「たたみ皺」にうすものの様子がよく出ている。















銀河集作品抄


伊藤伊那男・選

臭豆腐の匂ひまつはる夜店の灯     東京  飯田眞理子
神輿練る迷路ばかりの漁師町      静岡  唐沢 静男
あつぱれや五羽一斉のつばめの子    群馬  柴山つぐ子
卓上のナイフの幅の薄暑光       東京  杉阪 大和
青嵐群羊草に溺れつつ         東京  武田 花果
七口を攻め下るかに青嵐        東京  武田 禪次
遠富士を窓にひきよせ新茶汲む     埼玉  多田美記
筍に直に書かるる値段かな       東京  谷岡 健彦
野に咲きしをみなの領巾や薬狩     神奈川 谷口いづみ
羽抜鶏井月翁の背ナをふと       愛知  萩原 空木
梅雨蝶や古潭の澄みし水の神      東京  久重 凜子
夏芝居買つて出るなら斬られ役     東京  堀切 克洋
浜豌豆咲く弓なりの九十九里      東京  松川 洋酔
牡丹の香ごと崩れてしまひけり     東京  三代川次郎



















         





綺羅星集作品抄

       

伊藤伊那男・選

アイロンは小舟のやうに更衣      千葉  白井 飛露
かはほりの目に正対の逆さ富士     東京  中村 孝哲
虫を捕る残像だけの蟇の舌       東京  橋野 幸彦
たやすくは泣かぬ意地あり虎が雨    神奈川 宮本起代子
さりげなく先代を褒め棚経僧      東京  堀内 清瀬
西瓜切るシルクロードの終点に     東京  上田  裕
桜桃を捥げば月山近づきぬ       埼玉  大野田井蛙
磐座を担ぐ構への蟇          東京  大住 光汪
袋のみ残る樟脳更衣          愛媛  片山 一行
黒南風やただ忘却を待つ史実      東京  桂  信子
ががんぼや罫線ほどの脚で立ち     神奈川 有賀  理
早乙女のひとりは唄に遅れがち     東京  今井  麦
粉々に花瓶割るるは薔薇の怒り     宮城  小田 島渚
草刈機古墳の裾を三分刈        和歌山 笠原 祐子
青簾帰りくる部屋こない部屋      高知  神村むつ代
阿弖流為の地に踏み入ればやませ来る  東京  朽木  直
花を見し人へ青梅分けてをり      東京  小泉 良子

大磯や町のどよめく海開        東京  相田 惠子
噴水に透かして歪む護衛艦       神奈川 秋元 孝之
独りつ子喧嘩もなくて柏餅       東京  有澤 志峯
揉む人を見て揉まれゐる三社祭     東京  飯田 子貢
行々子まだ鳴きたりぬ夕べかな     埼玉  池田 桐人
団扇風ときに赤子を裏返し       埼玉  伊藤 庄平
水馬の足の下なる水ゑくぼ       東京  伊藤 政三
また一人鬼籍へひとり粽喰ふ      神奈川 伊東  岬
山頂に開くポストや雪解富士      東京  宇志やまと
三枚の葉が露払ひ半夏生        埼玉  梅沢 フミ
紅刷いて匂ひもたざる梅雨菌      埼玉  大澤 静子
聖杯の真白を掲げ朴の花        東京  大沼まり子
夢に来てすぐ消ゆる妻明け易し     神奈川 大野 里詩
いつも買ふ焼売弁当雪解富士      東京  大溝 妙子
眼圧薬一滴万緑仰ぎ見つ        東京  大山かげもと
鴉の子一羽落ちたる草深し       東京  小川 夏葉
羽黒山汗の木綿注連持ち帰る      埼玉  小野寺清人
古都巡り巡りきれぬも花疲       神奈川 鏡山千恵子
風に乗るには重き朴の花        東京  梶山かおり
彼の岸のこだまのやうに夏鶯      東京  我部 敬子
梅雨入りや湿度計てふ猫の髭      東京  川島秋葉男
蛇の衣漲りのまま乾びけり       長野  北澤 一伯
尾の先に烟れる富士や鯉幟       東京  柊原 洋征
鯉みがくやうに水湧き五月富士     神奈川 久坂依里子
玄関に見慣れぬパナマ帽と靴      東京  畔柳 海村
田の濁りまとひ釣らるる鯰かな     神奈川 こしだまほ
鈍いろの空を灯して枇杷熟るる     東京  小林 雅子
形代に嫁がする子の名をしるす     東京  小山 蓮子
牛突きのポスター島に着陸す      長崎  坂口 晴子
つり橋にふりかへるとき青嵐      千葉  佐々木節子
梅雨寒や明日の喪服を壁に吊る     長野  三溝 恵子
待ち合はす人噴水の向う側       東京  島  織布
巣立鳥先頭の子の思ひ切り       東京  島谷 高水
かざし草糺の森に育まれ        兵庫  清水佳壽美
白南風や岬に並ぶ黒酢甕        埼玉  志村  昌
武相荘
薫風や自己を貫く遺言書        東京  白濱 武子
新緑の色を違へて箱根山        東京  新谷 房子
沿線にビール工場麦の秋        大阪  末永理恵子
行々子底すつてゆく手漕舟       静岡  杉本アツ子
一椀の白粥もらふ安居寺        東京  鈴木 淳子
またたびの花の幣めく法の山      東京  鈴木てる緒
でで虫や傘手離さぬひと日旅      東京  角 佐穂子
快音の子規の球場若葉風        東京  瀬戸 紀恵
蜘蛛の巣の雨粒入れて編みにけり    神奈川 曽谷 晴子
植ゑ終る棚田に千の水ゑくぼ      長野  高橋 初風
ビー玉に忘れてをりし夏のあり     東京  高橋 透水
老鶯のたつぷり間合とることも     東京  武井まゆみ
コーカサスの磔刑の槍山滴る      東京  竹内 洋平
新樹光白洲次郎の助手席へ       東京  多田 悦子
浜木綿やかなたの海を向きて揺れ    東京  田中 敬子
きゆつと鳴るこけしの首ややませ吹く  東京  塚本 一夫
葛切や父は生涯京訛          東京  辻  隆夫
青葉潮伊豆大島を丸吞みに       愛知  津田  卓
けもの径抜け毛匂はす夏初め      東京  坪井 研治
万緑に万の声あるやうな風       埼玉  戸矢 一斗
網戸とて入る風のなき浪速の夜     大阪  中島 凌雲
伝説の火牛の計や青嵐         神奈川 中野 堯司
母よりも父の記憶や麦の秋       東京  中野 智子
やませ吹く賢治の像は衿を立て     茨城  中村 湖童
空豆に角張つてゐる塩の粒       埼玉  中村 宗男
父の書の栞が香る迎へ梅雨       東京  西原  舞
これやこの逢坂山の法師蟬       東京  沼田 有希
大祖のなりはひ知らず竹の秋      広島  長谷川明子
鶯笛陽明門を背ナに売る        神奈川 原田さがみ
漫画史記揃へ水打つ理髪店       兵庫  播广 義春
涼み舟乱舞の鷗先立てて        東京  半田けい子
雨はすぐ止むと告げ合ふ梅雨雀     東京  福永 新祇
青嵐へもんどり打つて鯉跳ねる     東京  星野 淑子
我がつとめ鈍き歩みや蝸牛       東京  保谷 政孝
やはらかな雨うぐひす餅の湿り     岐阜  堀江 美州
回文の思はぬ長さ明易し        埼玉  夲庄 康代
臥待や祖母の語りのむかしむかし    東京  松浦 宗克
煙突に地酒の銘や青嵐         東京  松代 展枝
子鴉に空の深さを教へをり       東京  宮内 孝子
梅雨の蝶わが魂の如舞ひ昇れ      千葉  無聞  齋
島の灯の一つ清しき伊予簾       東京  村上 文惠
濃紫陽花蔭ひとつなく陽を返す     東京  村田 郁子
虫干や部屋に母の香叔母の香も     東京  村田 重子
禿頭にたつぷりと塗る日焼け止め    東京  森 羽久衣
万緑やときにくぐもる鳥の声      千葉  森崎 森平
天神の御霊静めの梅熟るる       埼玉  森濱 直之
吊橋の夏山揺らし渡りけり       長野  守屋  明
黄檗の山門出でて新茶買ふ       愛知  山口 輝久
鑑真忌襖の墨の淡さかな        東京  山下 美佐
脱ぎ掛けのちんちくりんの竹の皮    群馬  山田  礁
妻偲ぶ梅雨寒の夜の梅茶漬       東京  山元 正規
菜園は老いの居場所よ明易し      愛媛  脇  行雲
青あらし神馬は四肢を張りづめに    東京  渡辺 花穂
バリカンの毬栗頭夏きざす       埼玉  渡辺 志水
















     







銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男

アイロンは小舟のやうに更衣       白井 飛露
更衣に当たって半袖シャツなどにアイロンを掛ける。シャツは海原。その上を軽快に走るアイロンは舟。何とも気持ちの良い構成の句である。同時出句の〈金魚見る我を金魚は見てゐない〉の、裏切られたような下五の据え方のうまさ、〈問題は団扇で乗り切れるか否か〉の団扇だけに頼る暑さ対策のユーモア、〈伏せ置きぬ手鏡怖し五月闇〉の心象表現の深さ、〈白南風に舟盛の舟干されをり〉の季語の斡旋の的確さ、と各々多彩な面を見せてくれた。 


かはほりの目に正対の逆さ富士      中村 孝哲
二読、三読して、そういうことか!と理解した。洞窟などの天井に逆さにぶら下がった蝙蝠から見れば、湖に写った逆さ富士は逆さではなく「正対」する形である。反対に本物の富士山こそ、蝙蝠から見れば逆さ富士となる。――という訳の解らないようなへんてこな句なのである。こんなことを考える馬鹿馬鹿しさこそこの人の持ち味だ。 


虫を捕る残像だけの蟇の舌        橋野 幸彦
その場面を見たことはないが、あののろのろとした生き物の代表選手のような蟇も、生きていくためには素早い行動をすることがあるのであろう。作者は捕食する電光石火の行動に啞然とするのだ。あれは本当だったのだろうか?一瞬の舌の「残像」だけが作者の網膜に残ったのである。 


たやすくは泣かぬ意地あり虎が雨     宮本紀代子
 さすがに銀漢誌連載中のエッセイ「久保田万太郎覚書」の作者の句である。万太郎の芝居の一場面を切り取ってきたような、物語性のある構成である。女性の心の機微、女の意地などあれこれと読者の想像を誘うのである。季語の「虎が雨」が効いているのだ。陰暦五月二十八日の雨で、曾我兄弟の討たれた日。兄十郎の愛人、大磯の遊女虎御前の涙雨である。


さりげなく先代を褒め棚経僧       堀内 清瀬
都市への人口集中化や少子化の影響で、地方には維持できない寺が増加中とのことだ。この句は檀家制度の良さが出ている句である。多分出来の悪い当主に対して、直接戒めるのではなく、先代の長所や業績をさりげなく褒めて解らせようというのである。そうした味わいの句。 


西瓜切るシルクロードの終点に      上田  裕
 奈良や高野山などに残された文化財を見ると、しみじみと、日本はシルクロードの終点なのだな、と思う。遣隋使や遣唐使が危険を冒して交流した結果である。海の上にシルクロードがあった、ということである。西瓜はアフリカ中部原産といわれており、延々とシルクロードを経て十六、七世紀に渡来したのだという。西瓜を切るときにその遥かなる道程に思いを馳せるのである。


桜桃を捥げば月山近づきぬ        大野田井蛙
 さくらんぼの佐藤錦は山形県東根が発祥の地。ここから北に月山の稜線が見える。捥いだその先を見ると雪を残した月山が覗く。さくらんぼの赤と残雪の白とのコントラストが鮮明である。上五を「さくらんぼ」として一拍置いた軽い切れにした方が調べが良さそうだ。


磐座を担ぐ構への蟇           大住 光汪
磐座は信仰の中でも最も古い形態で、山上や山中の巨大な岩を神霊が宿る憑(より)代(しろ)として崇めるものである。この句は大きく出たものだ、と思う。そこから這い出した蟇があの巨大な岩を担ぐような姿勢でいる、というのであるから。見立ての見事な構成である。


袋のみ残る樟脳更衣           片山 一行
秋に夏物の衣類を仕舞い、さて半年を経て開くと、袋に包まれていた樟脳の中身は空っぽになっている。ちゃんと働いていたのである。句にその歳月が籠められているところがいい。


黒南風やただ忘却を待つ史実       桂  信子
歴史は勝者が作るものだ。牽強付会は当り前で、都合の悪いことには蓋をして忘れ去られるのを待つ。それは人間の長い歴史の中でも、ほんの僅かな期間の会社の社史などでも必ず起こる、否応もない人間の性である。この句は「黒南風」の季語に籠められた暗さが効果的。

 その他印象深かった句を次に

草刈機古墳の裾を三分刈         笠原 祐子
阿弖流為の地に踏み入ればやませ来る   朽木  直
ががんぼや罫線ほどの脚で立ち      有賀  理
粉々に花瓶割るるは薔薇の怒り      小田島 渚
青簾帰りくる部屋こない部屋       神村むつ代
卓上のナイフの幅の薄暑光        杉阪 大和
早乙女のひとりは唄に遅れがち      今井  麦
花を見し人へ青梅分けてをり       小泉 良子

















                




 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
秀逸
されど子も大事なりけり桜桃忌    千葉  長井  哲
すぐ壊れさうで壊れぬゼリーなり   神奈川 星野かづよ
通し鴨狩場の跡に羽伸ばす      東京  保田 貴子
真塗りの棗に映る梅雨の闇      東京  小林 美樹
来ル勿レとふ産土へ帰省する     東京  北原美枝子
汗噴けり試しに座る懺悔室      東京  立崎ひかり
定年の無くて野良着の更衣      長野  坂下  昭
水攻めや上総一国代田水       神奈川 白井八十八
つぎつぎとゴンドラを吞む青嶺かな  埼玉  萩原 陽里
春キャベツ空気の層を芯に抱き    東京  福原 紀子
大阿蘇の鼓動聞こゆる草泊      東京  家治 祥夫
豆飯の匂ひ(いき)れて母のこと       東京  矢野 安美
いち早く雨の匂ひを蝸牛       東京  山田  茜
籐寝椅子足の合間を白帆かな     神奈川 渡邊 憲二
鮎掛かり横一線の飛沫かな      東京  久保園和美

太棹でざわつき納め夏芝居      神奈川 河村  啓
千貫神輿の咆哮街を揺るがせり    東京  黒田イツ子
羽抜鶏己の羽を踏み歩く       長野  桜井美津江
哀しみも少し透けつつ更衣      東京  永山 憂仔
母の声聞こえてくるか豆御飯     東京  手嶋 惠子






星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選

坪庭へ風を呼び込む夏座敷      東京  秋田 正美
切手貼ればたちまち撓ふ梅雨入かな  埼玉  秋津  結
夜祭や買うてもらへぬ抱人形     京都  秋保 櫻子
あと何度母の簡素な更衣       東京  朝戸 る津
二人居のいつかは一人秋の虹     東京  浅見 雅江
赴任地は地図の外れや蝸牛      東京  尼崎 沙羅
薫風を全身に吸ふ八十路かな     愛媛  安藤 向山
散りし後葉桜と言ふ普段着に     東京  井川  敏
熱残る電車の吊り手迎へ梅雨     東京  生田  武
田の隅に吹き寄せられし根無草    長野  池内とほる
乙女より乙女らしくて蜆蝶      東京  石倉 俊紀
万緑や大吊橋の張り強く       東京  市川 半裂
頑丈な網に仕上げる女郎蜘蛛     高知  市原 黄梅
茶畑の暮れて段々濃さを増す     東京  伊藤 真紀
友逝きて胸にたゆたふ初蛍      神奈川 伊藤やすを
鮎さばく中に混じれる囮かな     広島  井上 幸三
時の日や時を忘ぜし母に来る     埼玉  今村 昌史
雲間より残雪の富士見え隠れ     愛媛  岩本 青山
十薬や巣鴨に古き漢方医       東京  上村健太郎
流れくる水美しや麦の秋       愛媛  内田 釣月
郭公の谺響くや梓橋         長野  浦野 洋一
皺皺や今ひらきたる月見草      埼玉  大木 邦絵
蛍舞ふ笑顔の多き母がゐて      神奈川 大田 勝行
梅雨湿り朝刊はぐる音にさへ     東京  岡城ひとみ
新聞の折目揃はぬ梅雨湿り      東京  岡田 久男
手の平を太陽に向け盛夏かな     群馬  岡村妃呂子
心太加へたる荷の重きかな      東京  岡本 同世
東風吹かば何やら旅に向く心地    神奈川 小坂 誠子
ひるがへるときの光沢つばくらめ   京都  小沢 銈三
鳶の輪の歪む峡空青嵐        埼玉  小野 岩雄
谿にありて廂の朽ちし河鹿宿     静岡  小野 無道
海鳴りや父の歯形の箱眼鏡      宮城  小野寺一砂
昆虫に変態ひとに更衣        東京  折原あきの
南吹く湿りとほしの舫綱       静岡  金井 硯児
ビール手に津軽訛の輪の中に     東京  釜萢 達夫
よみがへる熊川宿や芋水車      福井  加茂 和己
手早さも味の一つに夏料理      長野  唐沢 冬朱
こあぢさし恋も魚も畦の上      愛知  北浦 正弘
古河
薬医門入れば十薬花盛り       神奈川 北爪 鳥閑
木の間より白き槍の穂橡の花     東京  絹田  稜
洗濯も追ひ立てられて五月晴     東京  倉橋  茂
帰りには植ゑられて居りキャベツ畑  群馬  黒岩伊知朗
河骨の灯る黄花や羽黒山       群馬  黒岩 清子
俎板の鱗に見ゆる青葉潮       愛知  黒岩 宏行
町内の掃除も神事夏祭        神奈川 小池 天牛  
友送る西方浄土今緑雨        群馬  小林 尊子
災禍過ぎ職辞し浪浪青き踏む     宮城  齊藤 克之
夏蒲団撥ねて浮世の朝迎ふ      神奈川 阪井 忠太
大皿の絵柄に負けじ初鰹       東京  佐々木終吉
おかはりと茶碗たかだか豆御飯    群馬  佐藤 栄子
薫風の大空に幣湯殿山        群馬  佐藤かずえ
講宿の凜としてをり今年竹      群馬  佐藤さゆり
あぢさゐのこぼす滴も七変化     東京  島谷  操
心地好き旅の疲れや合歓の花     東京  清水美保子
佐渡の旅世阿弥の跡の草むしる    東京  上巳  浩
丹沢や田伏に潜む赤楝蛇       東京  須﨑 武雄
賑ひは一時限り溝浚ひ        岐阜  鈴木 春水
打ち捨てし種が樹となり枇杷たわわ  群馬  鈴木踏青子
更衣子らの袖丈やや足らず      愛知  住山 春人
卒業の余韻残して写真館       埼玉  其田 鯉宏
水中の羽衣のごと琉金よ       千葉  園部あづき
文机に先代の文夏座敷        埼玉  園部 恵夏
そのドレスまた手を通す更衣     東京  田岡美也子
谷底の吊橋の上虹のたつ       東京  髙城 愉楽
母の日の息子の電話ぶつきらぼう   福島  髙橋 双葉
ふる里の山を写して代田かな     埼玉  武井 康弘
石仏に骨格みえず薄暑光       東京  竹花美代惠
急須振る新茶の色を余さずに     三重  竹本 吉弘
孑孑や井戸の陣取る路地の奥     東京  田中  道
入梅を前にあれこれすべきこと    神奈川 多丸 朝子
武相荘
葉桜や「葬儀無用」と次郎遺書    東京  田家 正好
力瘤見せる男の子の更衣       愛知  塚田 寛子
濁る世をするりと抜けてゆく鯰    東京  辻本 芙紗
今城塚古墳
清和なる力士埴輪の土俵入り     大阪  辻本 理恵
アトリエの窓にあまねく薄暑光    東京  豊田 知子
忍冬の花咲き庭の異国めく      神奈川 長濱 泰子
滝落ちて忽ち瀞となりにけり     千葉  中山 桐里 
田を植ゑて水に日暮の空を置く    大阪  西田 鏡子
追憶の青き空なる百日紅       静岡  橋本 光子
樟脳は母の匂ひや更衣        東京  橋本  泰
実梅落ち夜の深さの帰り道      東京  長谷川千何子
土用干し樟脳の香にかくれんぼ    神奈川 花上 佐都
耳すましこだま待つ孫夏の空     長野  馬場みち子
万緑や単線列車丸吞みす       千葉  平山 凛語
橋に居て豆腐屋の笛蚊食鳥      神奈川 堀  英一
水馬互ひの水輪消し合へり      東京  牧野 睦子
鵜飼舟闇の隠せる出番前       神奈川 松尾 守人
終ひ湯の香り増したる菖蒲かな    愛知  松下美代子
飛魚や翼たたまれトロ箱へ      京都  三井 康有
開け放ち釈迦ゐずまひに青葉風    奈良  三村  一
くちなはの揺する池面の彦根城    東京  三好 恵子
やませ来る幸福駅のホーム跡     東京  棟田 和博
梅雨冷の鈴緒に古き千社札      東京  八木 八龍
風死すや煉瓦造りの弾薬庫      東京  山口 一滴
紫陽花の次の色待つ雨あがり     群馬  山﨑ちづ子
古里の山田の中の田植唄       神奈川 山田 丹晴
蛸逃げて大捕物を舟の上       静岡  山室 樹一
短夜や後一分をしぶる朝       高知  山本 吉兆
大鳥居くぐり月山岩燕        群馬  横沢 宇内
湯上りの散歩河鹿に誘はれて     神奈川 横地 三旦
躍りつつ起きてくる子や夏休み    神奈川 横山 渓泉
木漏れ日の注ぐ籐椅子主なく     千葉  吉田 正克
神の社より薫風の木霊かな      山形  我妻 一男
テーブルに星座のごとく夏料理    東京  渡辺 誠子
鹿ヶ谷往く人もなき木下闇      埼玉  渡辺 番茶
眠る子に楽しき夢を団扇風      東京  渡辺 文子














星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

されど子も大事なりけり桜桃忌     長井  哲
 晩年、といっても太宰が命を絶ったのは三十九歳。確か「桜桃」の中に「子供よりも親が大事」という台詞があったように思う。それを踏まえて「されど」と打ち出したところに味わいがある。少し大袈裟な「なりけり」の措辞も面白い。私は太宰ファンだが、こんな人が親戚にいたら困るなとも思う。同時出句の〈衣更ふ少女に見えぬ翼あり〉〈万緑に包囲されたり甲斐の国〉〈掬はれて鯉になりたき金魚かな〉も各々独自の斬新な発想を称えたい。見事な四句。


すぐ壊れさうで壊れぬゼリーなり    星野かづよ
興味の持ち方が面白い、ということになろうか。ゼリーにも固い、柔らかいがあるようで、以前蒟蒻ゼリーが喉に詰まって死んだニュースを聞いたことがある。なかなかスプーンが入らないゼリーに、呟きのようにこのような句が出てきたことが面白いのだ。同時出句の〈水眼鏡してもついつい目を瞑る〉は子育て俳句ということになろうか。日頃の生活の中からしっかりと詩の材料を観察しているのである。〈心まで透き通りさう心太〉も心太に自分の「心」を重ね合わせて良い抒情を出していて、技倆も高い。 


通し鴨狩場の跡に羽伸ばす       保田 貴子
機知のある句だ。将軍家や宮内庁の管理する狩場の跡が今公園になっていたりするが、そこに通し鴨が泳いでいる。もう狙われることも無い。もちろん鴨は何も知らないのだが、「羽伸ばす」に、動作の写生と共に「羽根を伸ばす」という擬人化を重ねているのが技の高さである。同時出句の〈雪解富士十二単を解くごとく〉も比喩のうまさ。 


真塗りの棗に映る梅雨の闇       小林 美樹
棗は茶道で抹茶を入れる器。棗の実の形をしていることからそう呼ぶ。真塗りとは墨漆で塗ること。黒く鈍い深味のある色で、この句ではそこに梅雨の闇が映るという。静謐な茶室の様子が窺われる。棗という「物」だけに絞り込んでいてその小さな器に梅雨の世界を反映させた着目が斬新である。


来ル勿レとふ産土へ帰省する      北原美枝子
勿来関(なこそのせき)は奥羽三関の一つで、夷人来るなかれの意味。福島県と茨城県の境にあり、まさにここを越えると東北地方、奥州への入口を守る関である。源義家の〈吹く風をなこその関と思へども道もせに散る山桜かな〉で知られる。その関名を分解して、来るなと言われても帰省する、と持ち出したのは機知の良さである。同時出句の〈蒙古斑消えかけてゐる夏休み〉も子供の成長の変化を「夏休」で決めた季語の斡旋がうまいところだ。 


汗噴けり試しに座る懺悔室       立崎ひかり
キリスト教徒では無い私も教会を見学した時に懺悔室の椅子に座ってみて、やはり厳粛な気持ちになった思い出がある。具体的に「汗噴けり」と打ち出したのがいい。「試しに」にそこはかとないユーモア精神が窺われる。余談だが以前、伊集院静先生が、奥様の通う教会で、神父さんに「僕も懺悔してみようかな」と言ったら、奥様が「この人の懺悔を聴くのは何日かかるか解らないから、やめた方がいいですよ」と仰ったという話を聞いたことがある。


春キャベツ空気の層を芯に抱き     福原 紀子
春キャベツのあの巻きの緩さがよく出ている句だ。空気を抱くという着想がいい。同時出句の〈力抜くやうにつまんで鶯餅〉〈伊豆七島五つまで見ゆ青葉潮〉も、「力抜くやうに」の措辞のうまさ、「青葉潮」の季語の斡旋の良さに着目した。 


大阿蘇の鼓動聞こゆる草泊       家治 祥夫
 「草泊」は絶滅寸前の季語。山の裾野で秋、草を刈る作業を行うのに、仮小屋を建てて寝泊まりをすることである。今は車があるので日帰りで済む時代。この句は阿蘇山の「鼓動聞こゆる」が出色の表現。草千里を有する阿蘇の地名が揺るがないのである。同時出句の〈ふる里は入り日の中の稲穂かな〉の抒情もいい。


豆飯の匂ひ熱れて母のこと       矢野 安美
確かに豆飯はその特有の匂いですぐ解るものだ。「熱(いき)れて」の表現がうまいところだ。「母のこと」の下五の抑え方も抒情を深めている。同時出句の〈折皺もあの日も仕舞更衣〉「折皺」と「あの日」という別のものを並列にしてやはり抒情を深めている。 
その他印象深かった句を次に
いち早く雨の匂ひを蝸牛        山田  茜
鮎掛かり横一線の飛沫かな       久保園和美
太棹でざわつき納め夏芝居       河村  啓
千貫神輿の咆哮街を揺るがせり     黒田イツ子
羽抜鶏己の羽を踏み歩く        桜井美津江
哀しみも少し透けつつ更衣       永山 憂仔
母の声聞こえてくるか豆御飯      手嶋 惠子





















伊那男俳句  


伊那男俳句 自句自解(44)
                     
大数珠につながる子らや地蔵盆

 大学時代、先輩の親戚の家に転がり込んで、晩夏の京都を楽しんだ。蒸し暑い京都もお盆を過ぎると、どことなく秋の気配を感じたものである。丁度その頃に地蔵盆となる。京都には各町中に地蔵が祀られており、その前に筵を敷いて、菓子や飲物を用意し、ゲームや福引きなどで一日子供達を遊ばせるのである。子供の死亡率が高かった時代、子供を災厄から護ると信じられていた地蔵菩薩の前で無事を祈ったのである。「地蔵和讃」に詠まれているように、幼い子供が死ぬと、この世とあの世の境の賽の河原に行き、そこで石を積んでいる。ところがその石の塔を地獄の鬼が崩してしまう。その時、子供を守るのが地蔵菩薩である。私はその後証券会社に入り、京都に赴任して、その季節になるとあちこちで地蔵盆を見掛けたものである。指折り数えてみると、それから45年が経つのだが、少子化が進み、路地の生活も減ってしまった京都の地蔵盆は今どうなっているのであろうか……。
  
地獄棒削つてゐたる鮭番屋

 春耕俳句会に入会してしばらくした頃、福島県北部の請戸川の鮭簗吟行の記事が掲載された。盤水先生の郷里、いわき市に近く、鮭簗の南限であるという。その記事に触発されて翌年の秋であったと思うが、一人で吟行した。俳句を始めていなければ、わざわざ鮭簗を訪ねるなどという事で無かったであろう。俳句に様々なことを教わったのだな、と思う。鮭簗はまさに修羅場であった。無数の鮭が遡上してくるのを、簗場の下に網を張って待ち、引き揚げながら容赦なく棍棒で頭を打ち、昏睡させるのである。周辺は血生臭い風が充満している。番屋を覗くと受精作業をしていた。戸口に鮭を叩く棒が干してある。誰言うとなく「地獄棒」と呼ぶことを知った。一回川の水を飲んでしまった鮭は味が落ちて猫も関心を持たず跨いでいくという。さてこの句はもっと後、盤水先生を囲んで再度請戸簗へ行った折の句である。その後、東日本大震災の原発事故により立入禁止区域になってしまった。









      


 

伊藤伊那男  俳人協会賞受賞










 去る3月5日、平成30年度の俳人協会四賞の授与式が京王プラザホテルで行われました。
ご存じの通り、伊藤伊那男主宰が句集『然々と』で第58回俳人協会賞を、同人の堀切克洋さんが『尺蠖の道』で第42回俳人協会新人賞を受賞四、銀漢俳句会から4賞の内二賞を頂くという快挙となりました。2019/4/30/更新













俳人協会四賞・受賞式









更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。


 二次会・店内に入りきれない人数でしたが,日曜日とあって店の前の通りも通行が少なく,穏やかな天候の下、外に溢れる受賞者の二人や他結社の方々と交流するなど、思い思いにお酒を楽しみながr懇談を深め,何時までも祝賀会の熱気は冷めることがありませんでした。









 受賞 祝賀会

 伊藤伊那男 俳人協会賞
堀切 克洋  俳人協会新人賞
2019/3/17 学士会館
銀漢亭(二次会)


 月刊「俳句四季」に受賞の記事が掲載されました。
月刊「俳句四季」に受賞の記事掲載は
5月号(4/20発売)か6月号(5/20発売)のどちらかを予定しています。


リンクします。

句集 「然々と」 伊藤伊那男

 
句集「尺蠖の道」
拡大します。




linkします。



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拡大します。


受賞祝賀会 3月17日 日時 12時 
会場 学士会館 東京神田 


haishi etc
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銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。



    






   








掲示板






























               

銀漢亭日録

伊藤伊那男

6月

6月24日(月)
超閑散。21時に閉めて「㐂道庵」で浅酌。

6月25日(火)
「ひまわり句会」9人。環順子さん。

 6月26日(水)
「雛句会」15人と盛況。「鷹」誌創刊55周年記念号「平成、あの年」の平成15年の頁。私が銀漢亭開店の年を書いたが……届く。

6月27日(木)
閑散!

 6月28日(金)
「運河」の佐藤宏之助さん。「金星句会」あと5人(大阪の中島凌雲くんも)。気仙沼の一砂さん。明日、早いので21時半閉める。

 6月29日(土)
11時、北鎌倉駅集合。「鎌倉鍛錬句会」。小雨。43人。浄智寺〜亀ヶ谷切通し〜扇ヶ谷。英勝寺と寿福寺を巡る。鎌倉駅から逗子へ。駅前で昼食。キングサーモンの西京焼とちりめんじゃこの丼うまい! 「レクトーレ葉山 湘南国際村」へ。10句出し句会2回。

6月30日(日)
10句出し句会。終って13時過ぎ解散。逗子に出て、こしだまほさん推薦の「つく志」。刺身、鯵フライなどで打上げ。30人ほどいたか。あと大船に出て「いちぜん」で二次会。15人ほどいたか。結局帰宅は23時。

7月

7月1日(月)
6月の月次表。会員欄選評など。店、「かさゝぎ俳句勉強会」あと9人。うさぎさん、敦子さんなど。

 7月2日(火)
青畝についての講演録を銀漢誌用に禪次さんがテープ起こしをしてくれており、その校正。同人評執筆など。店、超閑散、20時半閉める。

 7月3日(水)
彗星集選評書いて8月号の執筆終了。週末の八戸での講演会の要旨固める。店、「きさらぎ句会」あと5人。「宙句会」あと12人来て、ヴーヴクリコで私の誕生日を祝って下さる。

7月4日(木)
 「十六夜句会」あと9人。

7月5日(金)
 9時、東京発「はやて」にて八戸へ。駅で「たかんな」主宰、吉田千嘉子さんの出迎えを受く。当方、井蛙、展枝、天野小石さん。「八食センター」の回転寿司「市場寿司」に入る。巨大な店。早速、「田酒」(これは秋田の酒だが)で乾杯。色々うまいものあり、中でも海鞘の一夜漬! あと十和田方面へ。奥入瀬の滝や流れを楽しみ、「蔦温泉」に入湯。あと「ホテル十和田荘」に投宿。湖畔、十和田神社など散策。「八食センター」の魚屋で買った、海鞘、海胆、粒貝で酒盛り。海鞘に生海胆を乗せるなど。この三点絶品! 宿の食事はそこそこに。

7月7日(日)
10時半、「八戸グランドホテル」。「薫風」創刊35周年記念大会に選者、講演で呼んでいただいたもの。午前中は式典に参加。午後1一時より1時間、「風土性俳句を顧みる」の題で「風」の歴史などについて喋る。14時半より祝宴。木附沢麦青氏に初めてお目に懸かる。あと、「吟翠」という店で二次会。あと同行3人のいる店に。更に部屋に戻って少し。祝句〈鮫角のともし火永久に風薫る〉〈薫風に和毛を散らせて海猫の島〉

 7月8日(月)
8時発のバスにて下北半島吟行へ。畑中とほおる先輩の案内。「伊吹嶺」の粟田やすし先生。「角川」の立木編集長、「俳句界」の河内静魚編集長と同行。淋代の浜あたりから晴れ渡る。尻屋崎で寒立馬。恐山へ。「むつグランドホテル」で昼食と出句3句。七戸十和田駅で「薫風」の皆様と別れる。新幹線八戸駅から東京からの3人組と合流。なんと一昨日に行った市場で、海胆、海鞘、粒貝と全く同じものを買って来たとて、またまた酒盛りで東京へ。今日、店は休み。隣の車両は安倍総理大臣が仙台から乗車し、厳重警戒中。車内販売のお姉さんに聞くとCCレモンを飲んで寝ておられるようだと。

 7月9日(火)
「信州伊那井月俳句大会」の事前投句の選句。1,600句ほどあり。途中、伊那市役所より催促の電話入る。昨日が締切り日であった。店、「火の会」12人ほど。八戸から送った干物類。新潟の若井新一さんの巾着茄子も今日から到来。「火の会」の面々、来合わせた清人さん各々、ヴーヴクリコ開けて私の古稀を祝って下さる。

 7月10日(水)
11時半、「梶の葉句会」が「放心亭」にて我部敬子さんの出版記念祝いの昼食会。ついでに私の誕生日も祝って下さる。店は超々閑散にて20時過、閉めて帰宅。中村孝哲さん句集の最終校正。「銀漢」8月号の校正。

7月11日(木)
新谷房子さん句集選句。店、「極句会」。「丘の会」のあとの池田、坪井、蘭さん。

 7月12日(金)
超閑散。19時半閉める。

7月13日(土)
10時、発行所、運営委員会。13時、麹町会館にて「銀漢本部句会」50数名。あと近くの中華料理店にて親睦会。あと渋谷で小酌。

 7月14日(日)
旅でお世話になった方々への礼状。中元礼状その他。雨。店、午後、元の金融会社時代の同窓会。20年前に倒産状態になった会社なのに同窓会が続く。今回は12人と少ないけれど。15時過ぎから21時まで思い出や近況など。

7月15日(月)
「海の日」。銀漢のエッセイ、自句自解、盤水の一句、私の8句など。夕方、杏一家来て、家族11人(龍正くんは学校の登山で信州)が私の古稀を祝ってくれる。嬉野の豆腐鍋など。颯斗(小二)が〈たなばたはいなおの年が一つ上がる〉、瑛斗(小五)が〈年一度織姫伊那男出合う時〉と祝句をくれる。

 7月16日(火)
 店、ホトトギス系「閏句会」6人。他、閑散。

 7月17日(水)
店、「三水会」4人。一緒に飲む。俳人協会の講演会を聞いていただいたという「岳」の方3人訪ねてきて下さる。NHKOBの水津さん、歌人の梅内美華子さん(八戸出身)と。

 7月18日(木)
 店、「銀漢句会」あと16人。水内慶太、鈴木忍さん。慶太さん、ヴーヴクリコ二本。敦子、清人さん。

 7月19日(金)
「蔦句会」選句。あと店へ9人。「金星句会」あと五人。

7月20日(土)
13時、日本橋スタバで作句。14時、「鮨の与志喜」にて「纏句会」。14人。あと茶碗蒸、鱧の唐揚、かますの塩焼。握り一通りなど。酒は「八海山」。

7月22日(月)
店、「演劇人句会」7人。

7月23日(火)
 「萩句会」選句。店、他結社の方々(忍、うさぎ、宗一郎さん他七人)の句会。「ひまわり句会」あとの9人。など。明日から週末まで休み。

7月24日(水)
9月号の会員同人選句稿を発行所郵便受けに入れて八王子へ。本日から週末まで、店は休み。八王子に禪次、洋征、高水、湖童の高齢者、私、井蛙の計6人金沢行バスに乗車.。












         
    






今月の季節の写真/花の歳時記


2019年9月20日  紫苑  from HACHIOJI


 

花言葉   「追憶」「君を忘れない」「遠方にある人を思う」
 紫苑
花名の由来。
属名の学名「Aster(アスター)」(日本語ではシオン属)は、ギリシア語の「aster(星)」を語源とし、星のように放射状に伸びる花びらの姿に由来します。なお、「紫苑」はこの花の薄紫色を指す色名としても使われています。清少納言もことのほか好み、「あでやかなるもの」として『枕草紙』にも登場させています。
牡丹臭木 紅葉葵  酔芙蓉am6時  酔芙 am16時 朝鮮朝顔
千日紅
ファイヤーワークス
郁子 パンパスグラス 曼珠沙華 千日紅
ストロベリーフィールド 
         
紫苑         

写真は4~5日間隔で掲載しています。 
2019/9/21   更新





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